血管の病気を治すには? より早く、より安全な薬を届ける研究

血管の病気を治すには? より早く、より安全な薬を届ける研究

身近で厄介な血管の病気

日本人の死因で最も多い病気はがんですが、2位以下の心疾患と脳血管疾患の2つを合わせると、がんと同じくらいの死者数になります。これらは離れた臓器の別の病気だと思われがちですが、どちらも動脈硬化といわれる血管の病気が原因でおこります。そのため血管を保護する薬があればいいのですが、まだ存在していません。

短期間で薬を作るには?

薬を一から作ろうとすると、膨大な費用と時間がかかります。より早く患者に薬を届けるために注目されている手法がドラッグリポジショニングです。すでに使われている薬を別の病気に応用することをいい、開発期間の短縮、安全性の確保などのメリットが得られます。
貧血の治療薬のひとつエリスロポエチンは、赤血球のもとになる細胞に作用して「赤血球を増やせ」と命令を出します。このエリスロポエチンが血管の細胞にも作用すること、そして血管では「血管を守る成分を作れ」と指示を出すことが研究からわかってきました。この研究を進めていくことで、将来的には貧血の治療薬エリスロポエチンを動脈硬化から血管を保護する薬にドラッグリポジショニングできるかもしれません。

臓器を線維化させる細胞外マトリックスの発見

細胞と細胞の間には、細胞外マトリックスと呼ばれる足場が存在します。そのひとつがコラーゲンです。臓器でコラーゲンが増えすぎると線維化といわれる状態になり、臓器の機能が低下してしまいます。動脈硬化で血液の通り道が狭くなって臓器に酸素と栄養が十分に供給されなくなると、線維化が進みます。
細胞外マトリックスの中には、足場以外の役割を持っているものがあります。例えばスパークは、胎児期に体を作る際に必要とされていて、生まれた後は少ししか存在しなくなります。しかし、スパークは加齢や高血圧が原因で心臓や腎臓などで増えてしまうことや、これらの臓器で大量のコラーゲンを産生させることがわかってきました。スパークの働きを薬で制御できれば、動脈硬化が原因で起こる病気の治療に貢献できると期待しています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

京都薬科大学 薬学部 薬学科 病態薬科学系 臨床薬理学分野 助教 鳥羽 裕恵 先生

京都薬科大学 薬学部 薬学科 病態薬科学系 臨床薬理学分野 助教 鳥羽 裕恵 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

薬学

先生が目指すSDGs

メッセージ

薬学を勉強した人の進路は薬剤師だけではありません。薬学という学問は範囲が広く、候補物質を探す、効果を研究する、完成した薬を患者に渡すなど、薬に携わるすべての領域を含んでいます。まだどのように薬に携わるかあなた自身の適性や興味がわからなくても、大学で勉強しながら、手を動かして学びながら、未来の選択肢を探しても構いません。医療に貢献したい、将来薬に携わる仕事がしたい思っているのであれば、薬学を学んでみてはいかがでしょうか。未来の薬のプロを待っています。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

京都薬科大学に関心を持ったあなたは

京都薬科大学では、「愛学躬行」を建学の精神とし、2024年に創立140周年を迎えました。薬の専門家として質の高い薬剤師を養成し、高度化・多様化が進み安全・安心の医療が求められる中、真に社会に貢献しうる人材を目指し、問題発見、問題解決型の教育に力を注ぎ、Science(科学)、Art(技術)、Humanity(人間性)のバランスのとれた人材育成します。そして、学術研究の推進とともに、高度の専門的能力や研究能力を有する薬剤師であるファーマシスト・サイエンティストを養成します。