講義No.13740 薬学 生物学

キノコが決め手!? 厄介ながんの転移を防ぐ

キノコが決め手!? 厄介ながんの転移を防ぐ

厄介ながん転移

がんは転移をすると、治療の難易度がぐっと上がります。転移の仕組みには不明な点が多く、まだ治療法が確立されていません。がん転移のメカニズムをより詳細に解明して、治療法や薬の開発につなげようと研究が行われています。例えば、マウスの皮膚がんが転移する様子を観察することで、転移しやすい細胞の特徴がわかってきました。

転移しやすいがんの特徴

特徴の一つが、がん抑制遺伝子の働きが弱いことです。人間などの生物は体内で細胞を複製して増殖しています。しかし複製の際にエラーが起こると、その細胞ががんになってしまいます。このときがん抑制遺伝子が働けば、軽度のエラーの修復や、重度のエラーを持つ細胞の排除を行ってがんの発症を防ぎます。転移しやすいがん細胞は、このがん抑制遺伝子の働きが弱いためにエラーを修復しにくくなっているといえます。
もう一つの特徴が、運動能力が高いことです。転移するには、組織に侵入して狭いすき間を移動する力が必要です。がん細胞の運動能力を観察するために、2層構造の容器を使った実験が行われました。容器の上層と下層の間には、がん細胞がぎりぎり通れる小さな穴の空いたフィルターがあります。穴は組織を模したゲルによってふさがれており、そのままでは通れません。すると上層のがん細胞はタンパク質分解酵素を出してゲルを分解し、下層をめざして進んでいきます。実験の結果、転移しやすいがん細胞は下層に沢山たどり着き、高い運動能力を持っていると証明されました。

キノコが転移抑制薬に?

転移しやすいがん細胞の特徴がわかると、転移抑制薬の候補を探す実験のための材料を集めやすくなります。転移能力が高いがん細胞を使用して、どの薬が効くのか実際に投与して調べることが可能です。薬の候補として注目され始めたのが、冬虫夏草というキノコです。冬虫夏草にはコーディセピンという有効成分があり、これががん転移を抑制する可能性が浮上しています。ただしそのままでは作用が弱いため、薬としての効果を高める方法が検証されています。

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先生情報 / 大学情報

武庫川女子大学 薬学部 薬学科 准教授 吉川 紀子 先生

武庫川女子大学 薬学部 薬学科 准教授 吉川 紀子 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

腫瘍薬理学

先生が目指すSDGs

メッセージ

感染症は、治療薬がたくさん開発されることで克服できるようになってきました。がんも同じようなステージに近づいていると考えています。がんに対してもたくさんの治療薬が開発されれば、治せる病気になるはずです。それを担う薬学部では、あなたが想像しているよりも幅広い学問の世界が広がっています。新たな治療薬のターゲットを見つける研究もあります。大学は、やってみたいことを発信すれば先生たちがサポートしてくれますので、あなたも視野を広げて興味のあることを見つけ、積極的に挑戦してください。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

武庫川女子大学に関心を持ったあなたは

『一生を描ききる女性力を。』をVisionに掲げる日本最大の女子総合大学。2023年4月、新たに心理・社会福祉学部、社会情報学部、スポーツマネジメント学科(健康・スポーツ科学部)が誕生。2024年4月には、歴史文化学科(文学部)が誕生し、12学部20学科の女子総合大学に進化しました。文系、理系、スポーツ、芸術系まで多種多様な学びに加え、キャリアセンター・学校教育センターを中心に就職サポートも充実。自らの意志と行動力で可能性を拡げ、生涯を切り拓いていく女性を育成しています。