アルツハイマー病の治療に革命を起こせるか

アルツハイマー病の治療に革命を起こせるか

脳内のゴミを掃除する謎の細胞

脳にはミクログリアという細胞が存在します。謎の多い細胞ですが、脳が持つ唯一の免疫細胞であることが知られています。脳の病気のアルツハイマー病の原因が、加齢とともに溜まるアミロイドβというゴミの蓄積だと言われていますが、ミクログリアにはこのゴミを掃除する機能があるとわかりました。
つまりミクログリアが元気であればアルツハイマー病にかかる可能性が低くなると考えられます。実際にラットの赤ちゃんからミクログリアを培養し、アミロイドβを脳に注射したラットに移植すると、脳からアミロイドβがきれいになくなりました。

生涯に一度しか作られない神秘の存在

しかし、これを人間に応用するのは簡単ではありません。例えば白血病を治療するには、骨髄にある血液を作り出す造血幹細胞をすべて除去し、新しい造血幹細胞を移植します。脳にある古いミクログリアを薬ですべて除去することは技術的に可能であることがマウスでわかっていますから、アルツハイマー病の治療でも同じことをすればよいわけです。ところが実際には、生命の犠牲なしにミクログリアを入手できないのです。というのも、赤ちゃんが母親のおなかの中で育つ胎生期に一度だけ生み出される細胞である「原始マクロファージ」が、発生途中の脳にすみ着いてミクログリアとなるからです。しかも脳ができあがった後では、脳へのバリアとなる血液脳関門によって生後のマクロファージは脳に入り込めません。つまりミクログリアが生まれるチャンスは生涯に一度しかないのです。

iPS細胞で乗り越える!

ここで重要な役割を果たすのがiPS細胞です。iPS細胞を使えば、原始マクロファージに近いものを作り出せると期待されています。しかし現状では、直接細胞を脳に移植できても、血液脳関門を破壊せずに血中からミクログリアを脳に入れることができません。この壁を乗り越えることさえできれば、アルツハイマー病をはじめとするさまざまな脳の疾患が治療でき、私たちの未来は大きく変わるはずです。

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京都薬科大学 薬学部 薬学科 統合薬科学系 教授 高田 和幸 先生

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薬学、脳科学、神経生物学

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メッセージ

大学では自由が与えられます。それは大学生活でのあらゆる体験が、あなた自身の将来につながる大切な財産となるということです。あなたの脳は今、生理学的に最も能力を発揮しやすい状態です。大学で学ぶための基礎知識、基礎体力をしっかりと身につけてください。その底力が、大学での学問の学びの深さにつながります。
最近は何かと人工知能(AI)が注目されていますが、人間の脳にはAIに勝るものがあると信じます。それは「失敗し修正できる」ことです。革新はむしろ失敗から生まれます。失敗しながら一緒に学んでいきましょう!

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