講義No.10911 観光学

スマホを駆使した旅は本当に「楽しい」のか?

スマホを駆使した旅は本当に「楽しい」のか?

人は何を求めて旅をするのか

人が旅をする動機には、多忙な日常から離れたい「逃避欲求」と、未知の出来事や場所を探求したい「新規性欲求」があります。旅のもたらす刺激は大きく、アメリカのスーパーでの買い物の仕方を自動車生産に応用したトヨタ自動車、ヨーロッパのカフェに着想を得たドトールコーヒー、ニューヨークの街角で個人宅配ビジネスモデルを見出したヤマト運輸など、多くの経営者が旅先でビジネスの着想を得ています。創造は異質な要素の混ざり合いの中から生まれるものなので、日常を越え出る旅は創造に相性が良いです。まさに「百聞は一験に如かず」です。旅先での経験は人の無意識下に宿り、何かのきっかけで表層に出てくることで「ひらめき」が起こるのだと考えられます。

現代人が旅に求めるもの

そして現代人が旅に求める動機に、「関係性欲求」があります。身近な家族や友人・仲間との旅には、同じ時間を共有することで関係性を深めたいという意識が働いています。時間的にも経済的にも多くの人が旅をできるようになったのは戦後以降ですから、「どこに行くか」より「誰と行くか」を大事にする考え方は現代的だと言えます。

便利=楽しいとは限らない

現代社会では、スマホさえあれば旅行中でさえも誰に頼ることもなく自分の力で旅をすることも可能になりました。しかし、スマホを使った旅と使わない旅を比較すると、実はスマホを使わない旅の方が満足度は高く、旅行中に見たものの記憶が鮮明であることがわかっています。思い出深い旅をするのに、不便な方がよいかもしれないのです。文明の利器は物質的な利便性をもたらしたものの、精神的な豊かさをもたらすかどうかは疑問が残るのです。旅では不便であるからこそ効用が大きい「不便益」があるとも言えます。もちろん、スマホを活用した方が効率はいいことは間違いありませんが、場面による使い分けができれば、もっといい旅ができる可能性があります。新しい技術を使うか使わないかではなく、自ら旅をデザインする新たな選択肢を得たと考えるべきでしょう。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

駒沢女子大学 人間総合学群 観光文化学類 教授 鮫島 卓 先生

駒沢女子大学 人間総合学群 観光文化学類 教授 鮫島 卓 先生

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観光学、経営学

先生が目指すSDGs

メッセージ

旅は知的好奇心を満たすだけでなく、自分を知るいい機会でもあります。若いときこそ旅を、できれば一人旅をしてください。どこに行くか、何を見るか、何を食べるのか、一人旅は意思決定の連続であり、自分の意思で動くという行動力と自己肯定感を育てます。そして旅先では、できるだけ自分の足で歩いてください。交通機関を使うと移動のスピードが速すぎるため、プロセスの記憶が残らないのが現代の観光の弱点です。遠くまで行かなくても地元をブラブラ歩くだけでも、初めて気づくことが数多くあるでしょう。灯台下暗しなのです。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

駒沢女子大学に関心を持ったあなたは

道元禅師の「正念」と「行学一如」という教えを建学の精神とする駒沢女子大学・駒沢女子短期大学では、一人ひとりの学生が、知性と理性を備え、それを実践しうる心豊かな女性となるよう懇切丁寧な指導を行っています。
そのため本年度より教職員が学生の皆さん一人ひとりと向き合い、手厚く面倒を見ていく「テーラーメイド教育」という考え方を取り入れます。
私たちが考える「テーラーメイド教育」とは、学生の皆さんからの要望をそのまま受け入れることではなく、学生その人にとってもっともふさわしい教育内容等を提供することです。