赤ちゃんの成長の不思議なメカニズム
赤ちゃんをめぐるミステリー
生後間もない赤ちゃんの両脇を抱えて両足を地面に付けます。すると、まだ歩けない赤ちゃんが、まるで歩いているかのように両足を動かし始めます(「歩行反射」と言います)。ところが、生後3カ月くらいになると、両足は全く動かなくなってしまうのです。そして生後1年くらいになると、再び両足が動き始めて歩けるようになっていきます。なぜ足の運動はいったん消えてから、再び現れるのでしょう。まさにミステリーです。
プログラム? それとも……?
私たちの成長は、ある程度は同じような順序で起こります。ですから、人間には成長に関わるプログラムが予め備わっていると考える立場があります(「生得説」とも言います)。その立場では、赤ちゃんの足の運動の消失は「脳」の成長によるものと考えます。これに反論したのがアメリカの発達心理学者 エスター・テーレンという人です。彼女は、足の運動が消失した赤ちゃんを抱っこして、その足を小さなプールに入れてみました。すると赤ちゃんの両足は見事に動き出したのです。ここで大事なことは、この時期の赤ちゃんの「脳」が、まだ足の動きを十分にコントロールできるほどには成長していないということです。つまり赤ちゃんの足は、プールの水の浮力で軽くなり、自ずと動き出したというわけです。この実験から、人間の成長がすべて「脳」に任されているわけではないという主張がなされるようになったのです。
未解明の部分が多い人間の成長メカニズム
これは、私たちの身体的・心理的な成長には、「脳」だけではなく、環境との相互作用も関わっていることを示しています。人間の成長は、さまざまな要因が複雑に組み合わさって起こります。成長のスピードは人それぞれ異なりますし、成長の仕方も右肩上がりではありません。「できるようになる/できなくなる」を繰り返し、少しずつ発達していくものなのです。そのメカニズムには未解明な部分がたくさんあります。それだけに子育てや発達心理学の研究のなかには、まだ多くの謎が隠されているのです。
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先生情報 / 大学情報
駒沢女子大学 共創文化学部 心理学科(2025年4月新設 設置届出済) 教授 丸山 慎 先生
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