コンピュータで解き明かす原子の世界

コンピュータで解き明かす原子の世界

新しい物質の可能性

私たちの身の回りにあるすべての物質は、周期表に並ぶ元素の組み合わせでできています。もし、これまでにない組み合わせが見つかれば、全く新しい物質が生まれるかもしれません。しかし、組み合わせは無限にあり、すべてを実験で確かめるには途方もない時間とお金がかかります。そこで、コンピュータの仮想空間の中で物質を作り、分子の安定性や、熱や電気の通しやすさなどを事前に調べるシミュレーション技術が研究されています。この技術によって、有望な物質候補を効率よく探せるようになりました。

隕石衝突がアンモニアを生む?

このシミュレーション技術は、生命誕生の謎を解き明かす手がかりにもなります。例えば、太古の地球の海洋に隕石(いんせき)が衝突した際に、どんな影響を与えたかを再現できるのです。地球が誕生したばかりの頃、大気には酸素がなく、窒素や二酸化炭素など「壊れにくい分子」が主成分でした。一方、生命の元になるアンモニアのような分子は、化学的に反応しやすい「軟らかい分子」です。では、そんな「軟らかい分子」がどうやって生まれたかという疑問に対して、「隕石の衝撃によって分子が変化した」という仮説が立てられています。実際にシミュレーションで調べると、衝撃波で海水の分子が壊れ、新たにアンモニアができる可能性が示されたのです。このように、現実では観測できない現象も、コンピュータの中では原子レベルで再現できます。

「コンピュータの中で実験」を身近に

最近は、どの研究分野でも用いられている「機械学習」技術を導入することで、スーパーコンピュータのような大規模な計算機を用いない場合でも高速に計算できるようになりました。例えば、あなたが新たに設計した分子構造を用いて、どのような化学反応が起こるのか、そのような「コンピュータの中での実験」が容易にできるようになってきています。

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先生情報 / 大学情報

熊本大学 理学部 理学科 准教授 島村 孝平 先生

熊本大学理学部 理学科 准教授島村 孝平 先生

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力学、解析力学、量子力学、機械学習

メッセージ

物質を混ぜたり、熱や圧力を加えたりすることで、思いがけない変化が起きるなど、化学や物理の授業で「面白そう」と思ったことがあれば、その興味を出発点に学んでみましょう。因みに、実は、こうした小さなひらめきが、現在盛んに研究されている機械学習の開発にもつながっています。例えばChatGPTには、人がどこに注目するかという直感的な発想が生かされています。あなたも、今からふと浮かんだ疑問やアイデアを大切にしていれば、それが未来の大発見につながるかもしれません。

熊本大学に関心を持ったあなたは

熊本大学は、「総合大学として、知の創造、継承、発展に努め、知的、道徳的、及び応用的能力を備えた人材を育成することにより、地域と国際社会に貢献する」という理念に基づき、地域のリーダーとしての役目を果たしています。かつ、世界に向け様々な情報を発信しながら、世界の学術研究拠点、グローバルなアカデミックハブとして、その存在感を高める努力をし、教育においては、累計30件にも及ぶ「特色ある教育プログラム」が優れた取り組みとして文部科学省から認定され、その教育力の高さと質の高い教育内容は定評のあるところです。