排熱から電気に! 持続可能で効率の高い熱電材料をめざして
身の回りの未利用の熱エネルギー
工場やオフィス、家庭、自動車のエンジンなど、社会のさまざまな場所で「熱」が発生しています。その一部は再利用されており、例えばゴミ焼却の熱で温められた水が温水プールに利用されています。しかし全供給エネルギーの利用効率は約3割に過ぎず、残りは未利用のままで熱として捨てられているのです。この熱を電気エネルギーに変換できれば、エネルギー資源の節約やCO₂排出量の削減に大きく貢献できます。それを実現するためには、熱を効率よく電気に変換する「熱電材料」が必要です。
電気を通して熱を通さない
熱電変換は、物体の両端に温度差を生じさせると電位差が生まれるゼーベック効果を利用します。このとき物体が熱を伝えやすいと温度差を保てなくなるため、望ましいのは熱伝導率が低いガラスのような材料です。しかし、ガラスは電気を通しません。熱を伝えにくく、電気を伝えやすい、相反する性質を同時に満たす「フォノングラス-エレクトロンクリスタル」を実現することが目標です。社会で広く活用するためには、資源量が豊富で環境負荷が小さい材料であることも重要です。
夢の熱電材料の実現
これを達成するために、クラスレート化合物と呼ばれる「かご状の結晶構造」を持つ材料が注目されています。その一つとして、シリコンとアルミニウムの「かご構造」にバリウムを閉じ込めた半導体が作られました。この材料は熱の伝導をガラス並みに抑える一方で、電気の伝導を効率よく行う特性を持つことが確かめられています。
カーボンナノチューブやグラフェンなどの炭素系ナノ材料も有力な候補です。カーボンナノチューブは軽量で強度が高く、柔軟なデバイスを作るのに適しています。これを用いた熱電変換デバイスの試作品が既に開発されており、工場の配管の漏れを検知する実証実験が進められています。
熱電変換に適した材料は温度帯によって異なります。現在の熱電材料は100℃以上が必要ですが、家庭で発生する小さな熱や人の体温から発電できる日も遠くないかもしれません。
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先生情報 / 大学情報
山陽小野田市立山口東京理科大学 工学部 電気工学科 教授 阿武 宏明 先生
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