結晶中電子の軌道が観測できる! 物性物理の面白さ
放射光と物質の電子構造を調べる光電子分光
電子を光速に近い速さにまで加速したところを磁場で進路を変えたときに発生するのがシンクロトロン放射(放射光)です。放射光の特徴はいろいろありますが、非常に明るく広がりにくい性質をもつX線光源といえます。そして、シンクロトロン放射などによる単色X線を当てて、金属の結晶など対象物から飛び出してくる電子の運動エネルギーを直接観測することで、物質の表面だけでなく、内部で電子がどんな動きをしているかを調べることができます。これを「光電子分光」といい、X線のように振動数やエネルギーが高い電磁波を当てると、電子が固体の内部から出てくる確率が高まります。これは日本での実験研究で明らかになりました。
応用範囲の広い基礎研究
光の偏光という性質を使って光電子分光を行うと、結晶中の電子のエネルギーだけでなく電荷分布や軌道の形を決定できることがわかりました。これで電子の軌道を決定すると、その物質の構造や性質の原因になることもわかってくるのです。ここで紹介した光電子分光は基礎研究ですが、例えば新しい材料の性質の評価など幅広い分野で応用研究にも活用されています。
世界をリードする研究と実験施設
高校で学ぶ物理は、個々の物質の性質よりもその動き方などの法則を扱う抽象的な内容ですが、さらに専門的な物性物理学になると、個々の物質そのものを相手に、量子力学や統計物理学などを駆使してその性質の解明に挑みます。電子や原子といった最もミクロな世界を実際に観測することができるのです。光電子分光による電子構造の観測は、日本発の実験手法が世界をリードするなど、研究の進展には高精度の実験施設が欠かせません。例えば、兵庫県にある大型放射光施設「SPring-8」(国立研究開発法人理化学研究所)は世界的にも最高スペックで、世界最先端の研究ができる施設です。SPring-8では、ここで紹介する研究以外にも、例えば新薬の開発や地球内部構造の研究といった幅広い分野の研究が行われています。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 基礎工学部 電子物理科学科 物性物理科学コース 教授 関山 明 先生
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