はるかかなたの星の爆発が、地球をほんの少しゆがめる
水素原子1個分のゆがみ
今から100年以上も前にアインシュタインは一般相対性理論を提唱し、質量を持つ物質はそのまわりの空間をゆがめ、物質が動くとゆがみは宇宙空間を波のように広がっていくと予想しました。これが重力波です。重力波が地球付近を通り過ぎると、地球も人もユラユラとゆがみます。しかしそのゆがみはあまりにも小さいので、実際の観測は難しいとアインシュタインは考えていました。
重力波望遠鏡で探る
2020年に観測を開始した重力波望遠鏡「KAGRA」は、この小さなゆがみを検出することができます。長さ3kmのトンネル2本がL字型に交差し、交差部分から1つのレーザー光を分離してそれぞれのトンネルに飛ばして反射させ、交差部分に戻ってきた2つのレーザー光を干渉させて、その明るさの変化を精密に記録します。重力波が通過すれば2本のトンネルの長さが交互に変化するため、明るさに特徴的な揺らぎが含まれます。これを利用して重力波を見出します。
ブラックホール同士の合体・衝突は、可視光などの電磁波では見えないので、重力波から得られる情報が唯一の手掛かりです。波に含まれる情報から、ブラックホールの質量などは解析できますが、それが宇宙のどの天体で起こったのかを突き止めることはできません。一方、中性子星同士の合体であれば、爆発して強い電磁波が出るので場所の特定が可能です。ただ、この爆発による可視光の増光は超新星の数十分の一で、継続期間も一桁短いため、観測は容易ではありません。2017年に欧米の重力波望遠鏡群で見いだされた重力波の到来方向の観測で、初めてそのような天体が見つかりました。
KAGRAの稼働による精度向上
これまでは欧米の重力波望遠鏡で観測が行われてきました。1カ所だけでは位置精度が悪いために数カ所が同時に観測し、観測された時間差から影響を及ぼした天体の方向を求めています。これからは日本でKAGRAが稼働することでどの方向の重力波に対しても位置精度が上がり、新たな宇宙の謎が解明されることが期待されています。
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先生情報 / 大学情報
広島大学 理学部 物理学科 教授 川端 弘治 先生
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