人種やジェンダーを超越する、インドネシアの女形舞踊家
インドネシアの女形舞踊家
男性が女性役を演じる女形は日本を含むアジアの各地に見られる芸術伝統です。インドネシアでは宮廷舞踊や大衆演劇の中で女形が活躍してきました。大小1万数千もの島々からなる群島国家、インドネシアの中でも、ジャワ島にある古都ジョグジャカルタでは、古くからの宮廷文化に基づく音楽や舞踊、影絵芝居など、さまざまな伝統芸術が今も脈々と受け継がれています。伝統芸術を重んじる一方で、現代の芸術家による革新的な創作活動も活発に行われているこの街は、インドネシアの文化をけん引する一大拠点です。この地で活動する女形舞踊家ディディ・ニニ・トウォは、傑出した技量を持つ女形の舞踊家であるとともに、大衆演劇の俳優やテレビ番組のコメディアンとしても有名な国民的スターです。
伝統を吸収し、新たな創作に挑む
ジャワ島の舞踊や大衆演劇では、古くから女形の伝統がありました。しかし、社会的な要因やイスラーム復興の動きなども影響して、近年ではあまり見られなくなっていました。ディディはその女形の舞踊の伝統を復活させただけでなく、日本舞踊をはじめとして、アジア各国で習得した多種多様な伝統舞踊の要素も織り込んだ創作舞踊に積極的に取り組み、国際的にも高い評価を受けています。
人間の多様性を芸術で表現する
1960年代後半のスハルト政権下のインドネシアでは、華人(中国系の人々)に対する厳しい同化政策がとられ、多くの華人が差別されるなど、苦難に直面してきました。同化政策は2000年代に入ってからやや緩和されましたが、華人系のジャワ人であるディディもまた、華人としての芸術表現が厳しく制限されるという経験をしています。ディディは、人種やジェンダーに対する既存の概念を脱し、境界を超越した創作舞踊を生み出し続けてきました。インドネシアの文化と歴史を背景に、人間の多種多様なアイデンティティを自ら創り出した舞踊で表現するディディは、多様性が重視されるこれからの世界において、注目されるべきアーティストの一人であるといえるでしょう。
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大阪大学 人間科学部 社会学科目 人類学分野 教授 福岡 まどか 先生
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