物理学と化学の知恵で切り拓く超伝導の未来
物質の性質を決めるのは?
物質には、硬さや色、熱や電気の伝わりやすさなどの性質がありますが、それらを決める要因は何でしょうか。例えば、鉛筆の芯に含まれるグラファイトは炭素原子でできていて、柔らかくて電気をよく通す性質があります。その構造は、蜂の巣のような六角形が連なってできたシートが層状になっています。ところが、炭素は原子がピラミッド状(正四面体状)に結合すると、硬いダイヤモンドになります。つまり物質は、同じ原子でできていても、構造によって性質が全く異なるのです。
極限状態で物質の性質を暴く
物質の性質と構造との関係を解明するのが、「物性物理学」という学問です。この分野では、物理学と化学の専門家が知恵を出し合い、役立つ物質の開発や実験による測定、コンピュータシミュレーションなどを行っています。高圧や強磁場、低温といった極限状態を作り出し、物質の性質を探る実験も物性物理学の研究のひとつです。
極限状態では、「超伝導」になる物質も研究されています。超伝導とは、物質を超低温で冷やしたときに電気抵抗がゼロになる現象で、電力を消費せずに強磁場が作れるなどの利点から、MRIなどの医療機器やリニアモーターカー、電力貯蔵装置の開発など、さまざまな分野への応用が進められています。
高圧力で原子間の距離を縮める
1911年に超伝導現象が発見されたのは、マイナス267度の環境でした。物質をこのような低温にまで冷やすのは至難の技です。そこで、超伝導になる温度が高い物質の探索が進められました。飛躍的な進歩は1986年、液体窒素(マイナス196度)で冷やせば超伝導現象を示す物質の発見です。ある物質に高圧を加えると、超伝導になる温度が上がることがわかったのです。圧力は、物質の原子同士の距離をぎゅっと押し縮めます。だから原子間の短い物質を合成すれば、超伝導になる温度は上昇するはずだ、という発想が新物質発見のカギとなりました。さらに使いやすい超伝導物質を求めて、大勢の研究者が日々研究を続けています。
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