講義No.13648 歯学 生物学

細菌叢の乱れ(ディスバイオシス)を科学する

細菌叢の乱れ(ディスバイオシス)を科学する

細菌叢の乱れが歯周病をひきおこす

歯を支える歯茎や骨が溶けてしまう「歯周病」の原因菌は、歯と歯茎の間の歯周ポケットに潜んでいます。ここには数百もの菌種で構成される細菌集団(細菌叢:さいきんそう)が存在しますが、悪玉菌の比率が増え、細菌叢の悪性度が高まったdysbiosis(ディスバイオシス)の状態となり、ヒトの免疫力とのバランスが崩れると歯周病を発症します。予防歯科では、歯周ポケット内細菌叢がどのようにしてディスバイオシスに至るのかについて、基礎と臨床の両面から研究が行われています。

細菌間食物連鎖で細菌集団の悪性度が高まる

基礎研究では、菌と菌との相性を調べる研究が進んでいます。特定の善玉菌、日和見菌、悪玉菌を組み合わせることで、悪玉菌がその数を増やし、バイオフィルム(被膜状になった菌の集合体)をつくる能力を高める現象が見つかりました。善玉菌が分泌する代謝物を日和見菌が受け取り、日和見菌がその代謝物から別の代謝物をつくって分泌し、悪玉菌へと受け渡します。その結果、悪玉菌の数が増え、バイオフイルム状態へと変化し、歯の表面に固着して、ヒトの免疫細胞からの攻撃を回避できるようになります。この細菌間食物連鎖ともいえる現象をつなぐ代謝物が何なのかをつきとめます。

基礎研究と臨床研究の結果が一致!

臨床研究では、歯周病の重症度が異なる方々から唾液を採取し、何百とある代謝物を一斉に解析するメタボロミクスという方法で、歯周病の重症度と関連する唾液代謝物を調べます。その結果、基礎研究で悪玉菌を増やす細菌間食物連鎖をつなぐ物質であることが明らかとなった代謝物が、歯周病にかかっている人の唾液から検出され、基礎研究と臨床研究の結果が一致しました。これらの代謝物の作用を止める薬を開発すれば、歯ブラシがうまく当たらない歯周ポケットでも、悪性度が高い細菌叢を発生させずに済むことが期待されます。

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先生情報 / 大学情報

大阪大学 歯学部 歯学科 予防歯科学講座 准教授 久保庭 雅恵 先生

大阪大学 歯学部 歯学科 予防歯科学講座 准教授 久保庭 雅恵 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

予防歯科学、口腔細菌学

先生が目指すSDGs

メッセージ

予防歯科では多様な菌を扱って研究します。複数の菌を組み合わせた場合、病原性を高め合うような相性や、逆にお互いを牽制し合うような相性のものもあり、予想をはるかに超える発見があります。それを見つけたときの興奮は格別です! また、こうした研究に従事していることで、病気の予防につながる知識を深めることができ、患者さんの質問に対して、きちんとした裏付けがある説明ができるようになるということも、学びがいにつながると思います。好奇心が旺盛で、生命科学に対して幅広く興味があるなら、ぜひ学んでほしい分野です。

先生への質問

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大阪大学に関心を持ったあなたは

自由な学風と進取の精神が伝統である大阪大学は、学術研究でも生命科学をはじめ各分野で多くの研究者が世界を舞台に活躍、阪大の名を高めています。その理由は、モットーである「地域に生き世界に伸びる」を忠実に実践してきたからです。阪大の特色は、この理念に全てが集約されています。また、大阪大学は、常に発展し続ける大学です。新たな試みに果敢に挑戦し、異質なものを迎え入れ、脱皮を繰り返すみずみずしい息吹がキャンパスに満ち溢れています。