細菌叢の乱れ(ディスバイオシス)を科学する
細菌叢の乱れが歯周病をひきおこす
歯を支える歯茎や骨が溶けてしまう「歯周病」の原因菌は、歯と歯茎の間の歯周ポケットに潜んでいます。ここには数百もの菌種で構成される細菌集団(細菌叢:さいきんそう)が存在しますが、悪玉菌の比率が増え、細菌叢の悪性度が高まったdysbiosis(ディスバイオシス)の状態となり、ヒトの免疫力とのバランスが崩れると歯周病を発症します。予防歯科では、歯周ポケット内細菌叢がどのようにしてディスバイオシスに至るのかについて、基礎と臨床の両面から研究が行われています。
細菌間食物連鎖で細菌集団の悪性度が高まる
基礎研究では、菌と菌との相性を調べる研究が進んでいます。特定の善玉菌、日和見菌、悪玉菌を組み合わせることで、悪玉菌がその数を増やし、バイオフィルム(被膜状になった菌の集合体)をつくる能力を高める現象が見つかりました。善玉菌が分泌する代謝物を日和見菌が受け取り、日和見菌がその代謝物から別の代謝物をつくって分泌し、悪玉菌へと受け渡します。その結果、悪玉菌の数が増え、バイオフイルム状態へと変化し、歯の表面に固着して、ヒトの免疫細胞からの攻撃を回避できるようになります。この細菌間食物連鎖ともいえる現象をつなぐ代謝物が何なのかをつきとめます。
基礎研究と臨床研究の結果が一致!
臨床研究では、歯周病の重症度が異なる方々から唾液を採取し、何百とある代謝物を一斉に解析するメタボロミクスという方法で、歯周病の重症度と関連する唾液代謝物を調べます。その結果、基礎研究で悪玉菌を増やす細菌間食物連鎖をつなぐ物質であることが明らかとなった代謝物が、歯周病にかかっている人の唾液から検出され、基礎研究と臨床研究の結果が一致しました。これらの代謝物の作用を止める薬を開発すれば、歯ブラシがうまく当たらない歯周ポケットでも、悪性度が高い細菌叢を発生させずに済むことが期待されます。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 歯学部 歯学科 予防歯科学講座 教授 久保庭 雅恵 先生
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