「エンブリオ」の研究でわかる、すべての脊椎動物の成長の仕組み
発生生物学とはどんな学問?
人間やほかの動物、鳥、魚など、地球上のすべての脊椎動物の体の形成は、受精卵から始まっています。それぞれの脊椎動物の体が、受精卵からどのようにして分化していくのか、その仕組みを探究する学問が、発生生物学です。近年注目されているiPS細胞などの研究成果も、この発生生物学の分野から生まれたものです。
受精卵からの分化のメカニズム
ニワトリの受精卵をふ卵器に入れて、6日ほどたってから、殻の一部を切り欠き、インクなどを注入して視認しやすくした状態で、卵の中のエンブリオ(胚)を調べてみると、目や脳、手足、尾などが形作られはじめていることがわかります。この時期の初期胚は、ニワトリもほかの動物も、あるいは人間であっても、ほとんど同じ構造です。このタイミングまで、エンブリオはほぼ同じ遺伝プログラムによって形作られているのです。
しかしこの後、それぞれの脊椎動物ごとに異なる遺伝プログラムが作動しはじめると、エンブリオの形状はどんどん多様化していきます。例えば人間の場合、初期のエンブリオではほかの脊椎動物と同じように形成されていた尻尾(しっぽ)が小さくなって、生まれるときにはほぼなくなってしまいます。
脊椎動物の共通性と多様性を調べるためには、それぞれの現象を支えるしくみをきちんと理解する必要があります。このとき、細胞のふるまいやその司令塔である遺伝子の役割が鍵を握ります。受精卵からいくつものドラマチックな展開を経てつくられる脊椎動物の体は、しっかりとしたルールのもとで作られているのがわかります。
知への欲求と社会貢献につながる研究
人間も含めた脊椎動物の体が形成されていく過程を研究することは、がんやさまざまな遺伝性疾患がなぜ起こるのか、その原因を解明し、治療法を確立することにもつながります。私たちの体の根本的な成り立ちの謎に迫る発生生物学は、知の探究の喜びとともに、社会への貢献にも結びつく研究分野なのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
京都大学 理学部 生物科学専攻 教授 高橋 淑子 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
発生生物学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?