細胞の発生から、病に影響する分子を見つけだせ!
「発生」についての生物学
人間や動植物を含む多細胞生物の発生から成熟、老化や再生について取り扱う学問を発生生物学といいます。例えば、人間の全身を支える筋肉「骨格筋」は通常高い再生能力を持っています。この骨格筋の壊死を引き起こす遺伝性の疾患が「筋ジストロフィー」です。その中でも「デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)」は重篤で、筋肉の再生が追いつかず心筋梗塞などを引き起こします。発生生物学では、このDMDが発現する要因を分子レベルで解き明かす研究が進められています。
骨格筋の再生に関わる分子
遺伝子の欠損によって筋ジストロフィーを発症する「mdxマウス」は、通常のマウスより寿命が短かったり背中が曲がったりするものの、人間よりも症状は軽度であることがわかっています。このことから、mdxマウスは骨格筋の再生を促進する分子の発現量が多いのではないかと考えられるため、mdxマウスと通常のマウスから筋芽細胞株を取り出し遺伝子発現の比較が行われました。その際に、「サイモシンβ4」というペプチドに着目し骨格筋の再生の促進について調査したところ、予想とは逆にサイモシンβ4の投与によって骨格筋の再生が抑制されることがわかってきました。現在もサイモシンβ4の働きと、再生を促進する分子についての調査が引き続き行われています。
研究の中から別の発見につながる
骨格筋再生の研究では、ほかにも「CXCL14」というタンパク質の調査も行われました。残念ながらこのタンパク質は骨格筋の再生にはあまり関わりはありませんでしたが、CXCL14を発現させる遺伝子を欠損させた実験用マウスは、野生型マウスより脂肪組織が少なく、高脂肪食を与えても糖尿病を発症しにくいことがわかりました。このことから、CXCL14は糖尿病の発症に関わっていることが見えてきたのです。このように、分子レベルでの研究では、思わぬところで新しい発見が生じ、別の症例の改善につながるヒントが見つかることもあるのです。
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先生情報 / 大学情報
熊本大学 理学部 理学科 准教授 中山 由紀 先生
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先生への質問
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