金属の可能性を広げる「バルクナノメタル」

金属の可能性を広げる「バルクナノメタル」

金属の特性とは何か

金属は、高い強度と可塑性(かそせい:変形しやすい性質)を持っています。また、電気伝導性や熱伝導性が高く、金属特有の光沢があります。化学的に見ると、周期律表中の多くの元素は金属元素です。金属と非金属を区別するのは、原子の結合方法です。原子は、原子核とその周りにある電子で構成され、原子同士の結合は電子を媒介にします。金属の場合は、放出した電子が原子と原子の間に均一に存在します。このような電子を「自由電子」と呼びますが、金属結晶内部では、自由電子の海に原子が規則正しく並んでいます。

金属の特性は何によるものか

金属の高い電気伝導性や熱伝導性は、自由電子を媒介にしています。金属光沢は、光が自由電子と相互作用した結果生じます。一方、金属の可塑性は結晶構造に原因があります。金属の場合、規則正しく原子が並ぶ結晶の中に途切れた部分や余計な原子が入り込んでいる場合があります。これを「格子欠陥」と言い、3次元的に見て線状になった格子欠陥を「転位」と呼んでいます。結晶に力が加わると、転位が結晶中をすべり運動することで結晶にズレが生じ、結果として原子サイズの段差ができます。これが重なりあって、金属の変形が可能になるのです。

バルクナノメタルで強度が4倍に

このような金属の性質をさらに高める研究が活発になされています。実際の金属の構造は、向きが異なる結晶が集まる多結晶体です。結晶の単位を結晶粒と言いますが、結晶粒と結晶粒の境界(粒界)は結晶とは異なる構造を示し、金属に特殊な性質をもたらします。そこで、結晶粒を特殊な技術でナノ単位まで小さくし、粒界だらけの金属にしたのが「バルクナノメタル」です。この金属は、強度が従来の金属の4倍になります。強度と可塑性は両立できないトレードオフの関係と考えられてきましたが、そのような常識を覆す、夢のような金属も誕生しています。

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京都大学 工学部 物理工学科 材料科学コース 教授 辻 伸泰 先生

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材料工学

メッセージ

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