偶然現象を数学で読み解く ~身の周りに応用される確率論~
サイコロの1の目が出る確率は?
高校の数学では、「サイコロを1回振ると1の目が出る確率は6分の1である」ことを前提とします。これは、「サイコロを6回振ったら、1回は1の目が出る」という意味ではありません。「大数(たいすう)の法則」によると、「何回もサイコロを振ると6回に1回の割合で1の目が出る」というのが正確な意味です。大数の法則とは、「確率pで起こる試行を繰り返し行うとき、“起こる回数”を“試行の回数”で割った数値はpに近づく」というものです。
大学で学ぶ確率論とは
大数の法則は経験的に導かれたものですが、「近づく」という言葉があいまいです。数学は、計算・論理を展開(証明)して、結論(定理)を導く学問分野ですから、あいまいな部分があってはなりません。これをハッキリさせるのが、大学で学ぶ確率論です。「近づく」の意味は極限を用いて定式化でき、大数の法則を定理として述べて、証明することができます。高校数学の範囲で理解できる定式化(弱法則)もあれば、測度論という高度な数学を必要とする定式化(強法則)もあります。一方で、意味の取り方によっては誤りにもなりますから、正しい定式化と証明に注意を払うことが極めて重要であることがわかります。
統計、通信、金融、物理、化学など応用分野は広い
実は確率論には、確率そのものの定義と格闘してきた歴史がありました。現在では、確率そのものの定義を考察の対象から切り離すことで、確率論は数学の分野の一つとして確立されています。確率論とは、偶然的な試行を多数回行うときに見られる現象を厳密に論ずる数学の分野であると言えます。そこでは高度な理論を駆使して、さまざまな成果が生み出されています。確率論の応用分野は広く、例えば、大量データの統計解析や雑音をともなう通信における情報伝達、デリバティブ(金融派生商品)の価格、熱運動による微粒子の拡散などにも応用されているのです。
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先生情報 / 大学情報
京都大学 理学部 数学教室 准教授 矢野 孝次 先生
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数学、確率論先生への質問
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?