嫌われ者のシロアリも、熱帯地域では生態系の健全度を計る目安
森林保全にとって必要なシロアリ
シロアリは、日本では家屋にすみつき建築に使われた木材を食べる害虫ですが、熱帯地域では森林を保全するためになくてはならない生物です。森林では、生態系を維持するために物質の循環が行われています。枯れた植物が無機物に分解され土に戻されることによって物質の循環がうまくいきます。その役割を担うのが、シロアリなのです。シロアリの栄養源は、枯れた木材に含まれるセルロースです。それを分解して消化吸収することによって、土に戻しています。
熱帯地域には、多様なシロアリがいる
ただ、すべてのシロアリが同じようにセルロースを分解しているわけではありません。一部のシロアリは、腸内で共生する原生動物が分泌するセルラーゼという酵素によって分解された物質を栄養源としています。また、キノコシロアリは、木をかじって巣に持ち帰りそれを丸めて、セルロースやそれよりも硬いリグニンを分解できるキノコの菌糸を埋め込み、そこから得られる物質を食べます。さらに、自らはセルロースの分解にはかかわらず、菌類によって分解された生成物が溶けた土中から栄養を摂取するシロアリもいます。このように、熱帯地域には多様なシロアリが存在しています。
シロアリの多様性で森林の健全度がわかる
シロアリが森林環境に関わっているのと同時に、森林環境はシロアリの多様性に深く関わっています。森林にシロアリが餌とする木材やその分解産物が豊富にないとシロアリは生息することができません。それを利用して、シロアリの種の多様性によって、森林の健全度を計ることができます。多様な種がいれば、菌類が繁殖していて、物質の循環がうまくいっているという証明になります。開発などによって木材が伐採されると、森林の水分が少なくなり菌類が繁殖せず、それを糧にするシロアリは存在できません。また、シロアリがいればいいというわけでもなく、単一の種しかいないと日本のように害虫化します。多様な種が維持されることが、生態系にとって最も重要なことなのです。
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山口大学 農学部 生物資源環境科学科 教授 竹松 葉子 先生
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