分子センサを活用し、人体に有害な物質を見分ける
亜鉛とよく似たカドミウム、水銀
周期表を見るとわかるように、亜鉛、カドミウム、水銀の3つの金属は同じグループに属し、よく似た元素とされています。カドミウムや水銀を体内に取り込んでしまうと、身体の中にあるタンパク質や骨などに異常をきたし、病気を引き起こしてしまいます。カドミウムによって引き起こされる病気として有名なのが、かつて日本でも公害として問題となった「イタイイタイ病」です。人体にとって亜鉛は必要な物質なのですが、我々の体の組織が、カドミウムや水銀を亜鉛と間違えて取り込んだ結果、身体に異常をきたすということが知られています。
人体でも識別できない成分を見分ける
同じグループに属する亜鉛、カドミウム、水銀の3つの金属イオンは、無色のため、その水溶液を目視で見分けることは不可能です。しかし、金属イオンが溶けている水溶液に、ある化合物を加え、紫外線を発するブラックライトをあてることで、特定の金属イオンが存在するときにだけ、強い蛍光を発するという現象が見つかりました。この現象を応用し、化合物の構造を精査して精密な分子設計を突き詰めることで、カドミウムや水銀などの、人体にとって危険な物質を厳密に察知する精巧な「分子センサ」を作り出すことができると考えられます。人間の身体は、よく「神様が創造した精密機械」と例えられるほど性能が高い作りになっていますが、そんな人体でさえも識別できない物質を、単純な構造を有する分子をうまく設計することで、容易に見分けることが可能となります。もしかすると、化学者が「神様」を越えることができるかも知れません。
分子センサを食の安全に生かす
カドミウムを検知する分子センサは、米の出荷時に活用されます。米の中に食品衛生法の基準値を超えるカドミウムが入っていると、「カドミウム汚染米」となり、市場に出すことはできません。現在は高価で大型な機器を使って分析をしていますが、研究が進み、安価かつ迅速に検査できる機器が開発されれば、「食」を守るツールがより進化するでしょう。
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先生情報 / 大学情報
奈良女子大学 工学部 工学科 教授 三方 裕司 先生
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