生物と光の関わり

生物と光の関わり

世界最小の分子機械、プロトンポンプ

生体内でエネルギーを利用して水素イオン(プロトン)を濃度の低いところから濃いところに輸送するタンパク質をプロトンポンプと呼んでいます。プロトンポンプは分子機械であり、世界最小のポンプです。プロトンポンプタンパク質として最もよく知られているのが、光エネルギーで駆動するバクテリオロドプシンです。バクテリオロドプシンは、高度好塩菌の紫膜から発見されました。高度好塩菌は死海のような塩湖や塩田など高塩環境を好んで生育するバクテリアで、タンパク質成分のすべてがバクテリオロドプシンから構成されている紫膜をよく持っているのです。当初は非常にマイナーなタンパク質だと思われていたのですが、2000年ごろに海洋性バクテリアからもよく似たタンパク質が次々と発見され、海などに存在する多くのバクテリアが光をエネルギー源とするプロトンポンプを持っていることがわかってきました。

光に反応するのはレチナール

プロトンポンプの代表バクテリオロドプシンを構成するアミノ酸は、レチナール(ビタミンA誘導体)という分子と結合しています。このレチナールは、光を感知する器官、つまり我々の目にも含まれています。目の中にあるレチナール結合タンパク質は視物質ロドプシンと言いますが、そのアミノ酸配列はバクテリオロドプシンとは全く違います。この二つのタンパク質に共通して結合しているレチナールが、生物が光を利用するときの重要なポイントです。
視物質ロドプシンだけでなく、細菌にも走光性を担う光センサーが存在し、光を情報に変換しています。ロドプシンが光を吸収すると、レチナール分子のシス-トランス異性化反応が起こってタンパク質の構造がかわり、情報を伝達するタンパク質を活性化することがわかっています。しかし、光のエネルギーがロドプシンの構造変化を介してどうやって伝達タンパク質の活性化をもたらすのか、その仕組みは残念ながらまだ解明されていないのです。

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名古屋工業大学 工学部 生命・応用化学科 生命・物質化学分野 教授 神取 秀樹 先生

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メッセージ

皆さんがこれから挑む大学入試の問題では、正解が一つしかありません。ところがその入試を突破して進学した大学で行う学問や研究には、正解がないということを理解しておいてください。研究は、人生と同じで答えのない問題を解くのです。面白いことに、勉強ができる人が研究を成功させられるかどうか、わかりません。どうすれば研究を成功させられるか、教授にもわかっていません。さまざまな答えを求めて、ぜひ研究の分野に参加し、日本がこれからも科学技術立国であり続けられるように力を貸してください。

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