ランニングシューズの常識を変えたのは、炭素繊維複合材料だった!
マラソンで好記録を出せるシューズの秘密
2017年、マラソン界の常識を覆すランニングシューズが登場しました。それまでのレース用シューズは薄底タイプが主流でしたが、新しく登場したのは底の厚さが約4センチもあるシューズです。その後、この厚底シューズを履いたランナーたちが、次々と好記録を打ち立てています。
速く走れる理由の一つが、ソール部分に使われているカーボンプレート「炭素繊維複合材料」です。曲がった形のプレートが、着地して平らになり、ばねのように元の形に戻ろうとしてランナーの体を前に押し出すのです。現在、炭素繊維と樹脂の界面(性質の違う2つの物質同士が接する境目)の高分子の分子構造を独自にデザインし、強く密着させることで、常識を変える更に強いカーボンプレートの開発が進んでいます。
世界初! 電気を通す炭素繊維複合材料
飛行機や自動車などに使われている炭素繊維強化プラスチック(CFRP)でも、分子をデザインして材料の性質を変える取り組みが進められています。軽くて強いのがCFRPの長所ですが、電気を通さないため雷が落ちると焼け焦げてしまう弱点があります。このため、CFRPが使われている飛行機は、外側を金属で覆うなどの対策が取られてきています。
ところが2015年、電気を通し、常温では液体でも、熱を加えると固まる性質を持った樹脂が設計され、世界で初めて開発されました。炭素繊維を並べた隙間にこの樹脂を流し込んだCFRPを作り、雷を模した電圧をかけたところ、全く損傷しませんでした。現在、飛行機などへの実用化への改良が進められています。
最上流技術「分子のデザイン」で世の中を変える
新製品を開発する過程を川の流れに例えた場合、厚底シューズなど最終的な製品は川の最下流、製品に使われる素材の分子設計は川の最上流といえます。「最上流の技術で、最下流となる製品の課題を解決する」、つまり、目に見えない分子のデザインで非常識を可能に出来、世の中をあっと言わせるところに、すごく面白みがあるのです。
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山形大学 工学部 高分子・有機材料工学科 教授 高橋 辰宏 先生
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