わたしたちの暮らしを助け、地球環境を守る「触媒」の進化
ノーベル化学賞を受賞した不斉合成の研究
有機化合物には、分子式が同じでも鏡に写したように対称的な分子構造で、重ね合わせることのできない「鏡像異性体(キラルな化合物)」があります。この化合物の右側に有用性が確認できても、もう一方の左側に毒性が確認されることがあり、これは薬でいうと効能と副作用のような関係です。そのまま合成すると1:1の割合で生成され、後から不要な側だけを分離することは難しいため、あらかじめ有用な側だけを合成する方法が研究されてきました。
そして2001年に、化学反応により左右対称ではない分子を合成する「不斉合成」の研究がノーベル化学賞を受賞しました。これは金属を材料とした錯体を触媒として、鏡像異性体の有用な側のみを作り出す研究です。この研究は多くの産業の発展に貢献しました。
金属由来から有機化合物由来のエコな触媒へ
しかし、金属由来の錯体を製造するには高温・高圧などの条件が必要で、石油燃料の消費や環境への悪影響が懸念されていました。また、化合物に微量ながら金属成分が残留することや、金属が産出される地域が限定され、価格や供給量が安定しないといった課題も残されていました。しかし、2021年にこれらの課題を解決する、「有機触媒による不斉合成」の研究がノーベル化学賞を受賞しました。有機化合物を材料とする有機触媒は、金属触媒と比べると毒性が低く、再生可能な材料を使用できる環境に優しい触媒です。
人と地球に優しい「秋山・寺田触媒」
さらにその後に発表された「秋山・寺田触媒」は、材料に近寄るだけで化合物が反応する特徴を持ち、これまでよりもさらに少ない触媒量で効率良く反応し、合成の効率が向上しました。現在は今後の工業的な使用に向けて、世界中で秋山・寺田触媒を使い、さらなる触媒効率の向上をめざす研究が続けられています。環境に優しくコストパフォーマンスの高い触媒が、わたしたちの生活で役立てられる日も、すぐそこまできています。
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先生情報 / 大学情報
学習院大学 理学部 化学科 教授 秋山 隆彦 先生
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有機化学、有機合成化学先生が目指すSDGs
先生への質問
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