化学合成で創る新しい薬への長い道のり
新しい仕組みの薬
近年、抗体医薬品や核酸医薬品など新しい医薬品が開発されて高い治療効果を上げていますが、これらも万能ではありません。また、既存の抗がん剤は正常な細胞にも毒性を示し副作用を起こします。さらに、一過性の痛みに効く薬はあっても、難治性の痛みを和らげる薬はありません。このような薬の課題を解決するために、化学合成の手法で新しい低分子医薬品を創る研究が行われています。膵臓(すいぞう)がんや前立腺がん、既存の薬が効かない特殊な乳がん、難治性疼痛(とうつう)や糖尿病、アルツハイマー病、製薬企業では開発が困難な難病などに対する、全く新しい作用の仕組みを持つ薬の開発をめざすものです。
2万の化合物から1つの候補
生き物や植物が持つ化合物の中には、薬のタネになるものが多数存在しています。そうした薬のタネとなる「シード化合物」を薬になるようにデザインして、実際に合成して評価します。具体的には、まずシード化合物について、構造を部分ごとに変えた化合物を作り、どこに活性があるのか、どうすれば活性が上がるのかを調べます(合成展開)。そうして構造を最適化した化合物の効果や毒性の有無を細胞レベルで評価して、問題がなければマウスなどを用いた動物実験へ進みます。それをクリアして初めて「開発候補化合物」となります。合成した約2万の化合物のうちの1つが薬になるかどうかという長い道のりです。
その一例として、抗がん活性を持つある花に含まれる成分を構造最適化して細胞レベルで評価したところ、がん細胞が死滅する濃度では正常細胞は全く死にませんでした。この化合物はマウスでも膵臓がんを抑える効果が確認されて、新しい膵臓がん治療薬になり得るものとして研究が続けられています。
難病治療薬の開発に力
患者数の少ない難病の治療薬開発は、製薬会社が取り組みにくいカテゴリーです。代わりに大学などの研究機関が難病のアミロイド病やポンぺ病の治療薬開発にも積極的に取り組んでおり、すでにいくつか有効な化合物が見つかってきています。
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先生情報 / 大学情報
富山大学 工学部 工学科 生命工学コース 助教 岡田 卓哉 先生
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有機合成化学、医薬品化学先生が目指すSDGs
先生への質問
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