船の速度を上げるヒントはウナギ? 造船技術を進化させる研究

船の速度を上げるヒントはウナギ? 造船技術を進化させる研究

船は長い方が抵抗が小さい?

船をスムーズに動かすためには、例えば船体を長くすると、水の摩擦による抵抗を小さくして速く走れるようになります。水に板を浮かべて前進させてみましょう。すると板が1枚だけのときよりも2枚を縦に連結した方が2枚目の抵抗は小さくなります。前にある板が水を引っ張ってくれるため、後ろにある板にはあまり抵抗がかからないのです。同じように船体も長くすれば後部の摩擦抵抗を抑えることができます。荷物あたりの抵抗が小さくなると、荷物を運ぶときの二酸化炭素排出量も減少します。同じ量のエネルギーで積荷を遠くまで運べるようになるのです。さらに、水素などの新しいエネルギーを使った船も研究されています。

ウナギの力で摩擦抵抗を下げる?

摩擦抵抗が小さい船を作るためのヒントは生物の生態にも隠されています。例えばウナギの肌には摩擦抵抗を下げる特性がありますし、カニの殻に含まれるキチンから作られるキトサンは水になじみやすい特徴を持っています。こうした生物を参考に水になじみやすい高分子を含んだ塗料などが開発されました。船だけでなく、水中の観測技術にもイカなどの生物が参考にされています。イカは静かな移動や素早い方向転換、急停止が可能です。イカの動きを再現したロボットは、水流に流されやすい対象の観察や、原発事故現場など人間が入ることのできない危険な場所の調査を手助けしてくれます。

測定技術の進歩で広がる研究

この分野の研究は、測定技術の進歩によって進んでいます。従来はピンポイントで観察するしかなかった水中の粒子の乱れを、レーザー光を使った計測が実現したことで、より広範囲で調べられるようになりました。水の乱れはモデル化して計算することはできても、実際の動きを観察することは困難でした。しかし技術の進歩により検証が可能になり、結果をもとにした新たな計算方法や理論が研究されています。今後は、将来どのような形の船が作られた場合でも適用できるよう、汎用性の高い計算モデルの研究も必要とされています。

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先生情報 / 大学情報

大阪大学 工学部 地球総合工学科 名誉教授 戸田 保幸 先生

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船舶流体力学

先生が目指すSDGs

メッセージ

あなたがおもしろいと感じることから勉強してほしいです。例えば同じ方程式を使うポテンシャル理論も、目で見える現象が好きならば水流の流体力学で先に勉強するほうがいいと思います。頭で想像して理論を組み立てることが好きならば見えない電子などの流れを扱うものがおもしろさを感じられると思います。
大学での研究は、教員もわかっていないことがたくさんあります。特に水の乱れは、謎の多い分野のひとつです。すべてを教員が教えられるわけではないので、私自身もあなたと一緒に新しいことを勉強しながら研究したいです。

先生への質問

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自由な学風と進取の精神が伝統である大阪大学は、学術研究でも生命科学をはじめ各分野で多くの研究者が世界を舞台に活躍、阪大の名を高めています。その理由は、モットーである「地域に生き世界に伸びる」を忠実に実践してきたからです。阪大の特色は、この理念に全てが集約されています。また、大阪大学は、常に発展し続ける大学です。新たな試みに果敢に挑戦し、異質なものを迎え入れ、脱皮を繰り返すみずみずしい息吹がキャンパスに満ち溢れています。