元素のコラボレーションで新しい触媒をつくろう
優れた触媒を手に入れるには
私たちの生活を支える工業分野では、触媒による化学反応が大きな力を発揮しています。優れた触媒をつくるには、その成分となる元素の選択が鍵を握ります。例えば窒素と水素からアンモニアを合成する反応には鉄を主成分とする触媒が使われていますが、この触媒の開発には2万回以上の実験が繰り返され、周期表のありとあらゆる元素が試されたと言われています。それでもなお、この触媒が機能するには数百度、数百気圧もの高温・高圧を必要としているのです。
偉大な自然の化学反応
ところが自然界を見ると、マメ科植物の根に存在する根粒菌は、空気の主成分である窒素ガスを常温・常圧でアンモニアに変えてしまいます。この働きは「ニトロゲナーゼ」という酵素がもたらすもので、その活性部位は鉄とモリブデンという2つの金属が硫黄と炭素でつながれた構造になっています。つまり32億年前から自然界に存在する鉄モリブデン触媒は、温和な条件でアンモニアを合成する極めて高性能な触媒となっていたのです。このように、元素をうまく協力させることによって生み出される優れた触媒は、結果として莫大な省資源、省エネルギーをもたらします。
これからの環境の鍵となる触媒
人類もこれまでに、複数の金属元素を組み合わせて多くの優れた触媒を開発してきました。例えば高品質のガソリンを製造するためには白金とスズを組み合わせた触媒が、自動車の排気ガスを浄化する装置には白金、パラジウム、ロジウムなどの貴金属を組み合わせた触媒が使われています。
現在、地球温暖化が大きな社会的課題となっています。ガソリンなどの燃料やプラスチックなどの化学製品を生産する際、石油や天然ガスなどを用いると大気中の二酸化炭素が増加します。そのため、二酸化炭素を再資源化したりバイオマスなどの再生可能資源を使う、カーボンニュートラルな物質変換法の開発が求められています。その実現に大きな鍵を握るのが、元素のコラボレーションによる新しい触媒の開発なのです。
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先生情報 / 大学情報
大阪公立大学 理学部 化学科 准教授 竹本 真 先生
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