可能性は無限大! 変幻自在のゲルで世の中の問題を解決
さまざまな能力を持つゲル
こんにゃくや豆腐、ゼリーなど、身近にはたくさんの「ゲル」があります。ゲルとは、高分子や微粒子が水の中で結合してネットワークを作り、溶液全体をその中に閉じ込めた状態をいいます。高分子、微粒子の種類や結合の仕方によって大きさや強度、吸水性などについて多様な性質のゲルを作ることができます。そのため、医療から産業までさまざまな分野に応用できる材料としてゲルの開発が進められています。排水処理技術への応用もその1つです。
微生物学の課題を材料工学で解決
メタン発酵は、生活排水などからメタンガスを生成する排水処理技術です。メタンガスはエネルギー源となるため、脱炭素社会をめざす今、注目されている技術です。ただし、生活排水の有機物を微生物に分解させてメタンガスを生成する一連の過程の中で、酢酸生成菌とメタン生成菌との間の生成物のやり取りが遅いことがネックとなっていました。2つの菌の間で電子が受け渡しされると生成物のやり取りが早く進むため、最近では菌と一緒に活性炭やマグネタイトなどの導電性の微粒子を溶液に入れてかくはんする方法が研究されています。しかし、菌も微粒子も溶液の中で自由に動くために、これら3つが接触する確率は高くありません。そこでゲルの登場です。菌と微粒子をゲル内に固定して接触効率を上げたところ、メタン発酵のスピードが大幅に上がりました。
ガスを通過させる独自のゲルの開発
ゲルは用途ごとに設計して作られますが、これまではガスを生成する菌を固定できるゲルはありませんでした。生成ガスでゲルが破裂してしまうのです。そんな中、強度を保ちつつ、メタンガスが通れる特殊なゲルの開発に成功しました。また、ゲルの高分子には微生物が分解しにくい人工の有機物が使われており、ゲルの作り方も微生物になるべくダメージを与えないような方法が選ばれています。
このゲルを使ったメタン発酵プロセスは、これから長期連続で運転して効果を確認するなど、実用化に向けてさらに研究が進められています。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
創価大学 理工学部 共生創造理工学科 教授 井田 旬一 先生
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