講義No.08833 生物学

太陽光は諸刃の剣!? 植物が備える光障害の防御メカニズム

太陽光は諸刃の剣!? 植物が備える光障害の防御メカニズム

植物は光が当たり過ぎても大丈夫?

光合成は、植物が光のエネルギーを利用して有機化合物を合成する作用で、植物が浴びた光は、細胞中のクロロフィルという色素により吸収され、化学反応を経てエネルギーとなるグルコースを生み出します。
人間は太陽光を浴びると、紫外線が細胞に作用して日焼け、シミやシワ、DNA損傷などのダメージを受けます。太陽の紫外線は生体分子の構造を変化させるほどエネルギーが強いためです。では、植物は光が与える損傷をどうやって防いでいるのでしょうか。

光によるダメージから身を護る戦術

紫外線は植物のDNAにも損傷を与えますが、葉に含まれるアントシアニンという色素が紫外線を吸収し、サングラスのように紫外線をブロックしています。強い光の下で育つアカシソの葉が赤みを増すのは、紫外線から身を護るためにより多くのアントシアニンを蓄積させるからです。
さらに紫外線以外の可視光線も、植物に損傷を与えます。部屋の中で育った植物をいきなり日差しの強いベランダに出したら、葉が変色したという経験はありませんか? これを「光障害」といいます。しかし、植物は光障害を起こさないための防御機構もちゃんと持っています。

過剰な光エネルギーを熱として捨てるメカニズム

光障害は、植物が吸収した光エネルギーのうち、光合成で使い切れなかった過剰なエネルギーによって生じた活性酸素が、細胞内の分子を破壊する現象です。光障害の防御機構のひとつが、光エネルギーを熱に変えて安全に捨てる熱放散システムで、クロロフィルと共に光を吸収する色素であるカロテノイド類が関与します。植物は、光が弱い時は集光能力の高いカロテノイドを増やして効率良く光を集め、一方、光が強い時は熱放散能力の高い別のカロテノイドに変換して過剰なエネルギーを熱として捨てて光障害を防ぐ、つまり、光の強さに応じて集光効率を変化させています。光の強さに対応して、リアルタイムで光合成システムをバランスよく調整できる植物は、想像以上に高度な生命維持のメカニズムを備えているのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

大阪公立大学 理学部 生物化学科 准教授 竹田 恵美 先生

大阪公立大学 理学部 生物化学科 准教授 竹田 恵美 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

植物生理学、植物分子細胞生物学

メッセージ

植物は動物のように自分の意思で移動することはできず、与えられた環境で生きていくしかありません。その代わり、植物には環境に応じて自分を大きく変えていける能力が備わっています。その不思議な力のメカニズムは近年の分子レベル、遺伝子レベルの研究で徐々に解き明かされつつありますが、まだわからない点も多いのです。
植物生理学の研究成果は今後、社会の幅広い分野にインパクトを与えることが必至で、非常に研究しがいのある分野です。生物に興味があるなら、きっと「これだ!」という研究が見つかるはずです。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

大阪公立大学に関心を持ったあなたは

2022年4月、大阪市立大学と大阪府立大学が統合し、大阪公立大学が誕生しました。大阪市立大学、大阪府立大学は共に約140年の歴史ある大学であり、水都として交通の要衝であった大都市大阪とともに発展してまいりました。この地の利を生かし、理論と実際を有機的に結合することにより、両大学は大都市大阪で生活する人々が必要とする精神文化の発展や産業と経済の振興を担う中心機関としての役割を果たしてきました。本学はさらなる異分野を融合・包摂した新たな学問の創造と多様な世界市民の育成を目指します。