プラスチック生産を変える、臭くて危険な「嫌われ者」

プラスチック生産を変える、臭くて危険な「嫌われ者」

プロパンガスから文具や食品容器へ

文具や食品容器など、さまざまな製品に使われているプラスチック「ポリプロピレン」は、プロピレンという物質の分子をつなげて作られます。そのプロピレンは、ガスコンロにも使われるプロパンを、触媒を使って分解することで生成することができます。触媒とは、分解や合成といった化学反応を促進する物質のことです。現在、プロパンからプロピレンを作るには、白金(プラチナ)やクロムという金属が触媒として使われています。しかし、白金は高価であること、またクロムは化学反応中に炭素成分が触媒表面に付着するために触媒機能がわずか15分でなくなってしまうという問題があります。そこで着目したのが硫黄です。

臭くて危険な物質を役立てる

火山や温泉に漂うにおいの元は硫黄と水素の化合物、硫化水素です。硫化水素は濃度が高いと人体にも害があり、引火性もあるなどやっかいな物質なのですが、これをプラスチック生産に役立てる研究が進められています。例えば、特定の金属に硫黄をつけた触媒を使って、プロパンからプロピレンと硫化水素を発生させます。このとき触媒から硫黄元素が徐々に消失していくので活性が低下しますが、発生した硫化水素と触媒を反応することで、消失した硫黄元素を補充し、活性が回復することがわかりました。このサイクルを回していくと触媒の持続時間が50時間程度まで伸び、プロペンの生産技術の課題を解決できる可能性が高まってきたのです。

特性を生かした新しい精製技術

この硫黄系の触媒は、プロパンに化学的な構造が似た「低級アルカン」と呼ばれる炭素数が少ない炭化水素系の物質(メタン~ペンタンなど)にも応用できることがわかっています。また、硫化水素は高熱を与えると化学結合が壊れて「ラジカル」(ほかの物質と反応しやすい状態)になりやすいので、その特性を生かし、低級アルカンの物質をより付加価値の高い化成品を合成する技術も研究しています。

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静岡大学 工学部 化学バイオ工学科 准教授 渡部 綾 先生

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触媒化学、化学工学、反応工学

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メッセージ

あなたはもしかすると高校で授業を受けながら、「これが何の役に立つのだろう」と思っているかもしれません。しかし、高校で学ぶ科目は、大学での研究や社会人としての職務にとって、すべて必要な知識です。例えば理系でも、数学はもちろん、国語力も非常に大切です。仕事の一環として、企画書や報告書など、伝わる文章をたくさん書かなくてはならないからです。
ですから、今、学んでいることは受験のためだけでなく、将来、自分がやりたいことをするのに必要だと信じて、しっかり勉強してください。

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