心の動きから政策決定まで 社会を豊かにするマーケティングの力
価値主導型マーケティング
現代のビジネスに不可欠なマーケティングには、顧客のニーズを明らかにするために、統計学をはじめとするさまざまな学術的理論・手法が用いられています。人が何かを買う動機はさまざまですが、感情や心の動きがより深く関係している点が現代の傾向です。マーケティング研究の第一人者、経営学者コトラーは、こうした「マインド」や「ハート」といった人間の感情的な要素を取り入れたマーケティングを「価値主導型マーケティング」と名付け、これを従来の「製品中心」「顧客中心」に続く「マーケティング3.0」に位置付けました。
感動をデータ化
価値主導型マーケティングは、心理学との親和性が高い点も特徴です。京都にある世界遺産、二条城で行われたあるフィールドワークでは、被験者に心拍数がリアルタイムで計測できるウェアラブルデバイスをつけ、二条城を自由に観光してもらいました。そして、心拍数に変化が見られたポイントを集計し、二条城の平面図に落とし込んだ「感情マップ」が作成されました。このときの心拍数の変動は、その人の感情の動きに重なっていることが心理学的に関連付けられているため、このマップで、広い二条城の中で多くの人が感動したポイントが一目でわかるようになっているのです。
ソーシャルマーケティング
二条城の実験は、地域の観光活性化の一環として行われました。近年ではこうしたまちづくりや教育、あるいは貧困対策といった政策決定において、「科学的なデータに基づいた意思決定=EBPM(エビデンスに基づく政策立案)」が重視されており、EBPMにもマーケティングの手法が役立てられています。
このように、何かを売るためではなく、より良い社会をつくるために用いられるマーケティングを「ソーシャルマーケティング」といいます。感情マップのように、さまざまな学問と連携して科学的な知見を示し、人々の行動の変化を促すソーシャルマーケティングは、より良い社会をつくるためにも非常に重要な学問なのです。
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先生情報 / 大学情報
同志社大学 政策学部 教授 多田 実 先生
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ソーシャルマーケティング、経営科学先生が目指すSDGs
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