農業と地域社会を支える「新しい会計」

農業と地域社会を支える「新しい会計」

農業独自の会計管理

農業も「事業」なので、会計管理による経営改善が欠かせません。しかし、農業会計は一般の企業会計とは異なる点が多々あります。例えば、果樹の場合には「樹の価値」と「実の価値」があり、それぞれが成長度合いなどによって変化します。また、製造業では工程を自由に入れ替えられますが、農業では作物の生育過程に従うしかありません。天候や市場の影響を強く受けるため、計画の立て方も制限されます。加えて、販売価格が市場によって大きく変動し、生産者はそれを決められません。こうした特徴のため農業特有の経営上の課題が発生して、一般企業とは異なる管理手法が必要なのです。

求められる「コミュニティ会計」

一事業者単位の会計管理だけではなく、農村地域全体の運営における財務管理も重要です。その中でも、近年は地域コミュニティの維持や運営にかかる費用の管理と、効果的な活用の重要性が増しており、「コミュニティ会計」として研究されています。
例えば、村全体が農業に従事していた時代には、あぜの草刈りは村中総出で行っていました。そのため、このような活動において各人が提供する労働力を客観的に評価する必要性が低く、会計手法が確立していませんでした。しかし近年は、過疎化・高齢化、非農業従事者との混住などが進み、活動の担い手不足を補うために外部委託なども一部行われるようになっています。その費用負担や管理の適切な方法を決めるために、会計手法の確立が必要です。そこで、各地のコミュニティにおける会計の現状の調査・分析が進められています。

地域活性化にもつながる

この取り組みは、農業だけでなく、地域社会全体が持続可能に発展するための大きなカギとなります。特に高齢化や過疎化が進む地域では、少ない労力と限られた資源をいかに効率的に使うかが重要です。効率的に運用されていることが見えるようになれば、移住の促進にもつながることが期待できます。会計手法の研究は、地域の持続可能な発展に不可欠なものなのです。

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先生情報 / 大学情報

鳥取大学 農学部 生命環境農学科 里地里山環境管理学コース 講師 木原 奈穂子 先生

鳥取大学 農学部 生命環境農学科 里地里山環境管理学コース 講師 木原 奈穂子 先生

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農業経営、アグリビジネス会計学

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メッセージ

高校時代の勉強は正解が一つのことが多いでしょう。しかし、大学での研究には答えがありません。複数の正解があることも、その時々によって正解が異なる場合もあります。社会では、矛盾する複数の考えのそれぞれに、それを正解だと信じて行動する人々がいることも多々あります。その時、なぜその結論に至っているかも含めて、興味を持って調べてみましょう。いろいろな人の話を、その背景も含めて聞いてみることで、視野が広がり、見えてくるものがあるはずです。

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鳥取大学は、教育研究の理念に「知と実践の融合」を掲げ、高等教育の中核としての大学の役割である、人格形成、能力開発、知識の伝授、知的生産活動、文明・文化の継承と発展等に関する学問を教育・研究し、知識のみに偏重することなく、実践できる能力をつけるように努力しています。また、研究・教育拠点、幅広い専門的職業人の養成、地域の生涯学習機会の拠点、社会貢献機能など個性輝く大学を目ざし、地方大学にこそ求められるオンリーワンの研究開発を行い、社会に貢献し、国際的競争力を確保できる大学運営を目指しています。