その土地の正しい歴史と価値を知って旅行を楽しむ「観光倫理」
観光地化によるデメリットとは
世界遺産に登録された地域は観光名所として大きくクローズアップされ、各地から多くの観光客が足を運びにぎわっています。世界遺産に登録されることで多くの人に知られ、世界各国からの観光客が訪れることは、経済の視点からは大きなメリットがあります。しかし、デメリットの側面があることも忘れてはいけません。観光客の増加にともない、その地域で出されるゴミが増え、近隣の商店が人であふれ、地域住民の普段の生活にまで支障が出てしまうなどの弊害が生まれているのです。
観光地に暮らす地元住民を忘れずに
単に有名な景勝地を楽しんで終わるのではなく、その地に根ざした歴史やそこで暮らす人々のことを考慮したうえで、観光を倫理の側面から考察することを「観光倫理」と呼びます。世界中、どこの観光地もその地に暮らす人々がいます。2018年に世界文化遺産に登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は、潜伏キリシタンの歴史を現在に伝える貴重な教会や集落の総称です。その中には普段から地域住民が利用している教会も含まれています。生活空間に多くの観光客が押し寄せることによって毎日の買い物に不便をきたし、人目が気になり洗濯物が干せなくなるなど、さまざまな問題が生まれています。
観光を一過性のブームで終わらせないために
観光客だけでなく、観光地の側にも改善できる点があります。世界遺産への登録だけを目的に予算をつぎ込んでも、その地の歴史的な背景や世界遺産としての価値を伝える努力を怠れば、一時的な盛り上がりだけですぐに沈静化してしまうでしょう。観光収入は自治体にとって大きな財源のため、一過性のブームに終わらせない、継続的に観光客が訪れる施策が必要です。観光に出かけ、美しい景色を楽しみ、その土地ならではの食事などをすることは、旅行の大きな楽しみです。さらに、地域の歴史や地元住民の生活を考慮した倫理の視点を持ち、現地の人々とふれあいのなかで生まれる何かを感じることで深みのある旅ができるようになるでしょう。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
福岡女学院大学 人文学部 現代文化学科 講師 池田 拓朗 先生
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