古代東北の蝦夷(えみし)はアイヌ民族ではなく和人だった

古代東北の蝦夷(えみし)はアイヌ民族ではなく和人だった

史料は正確なのか

現在の歴史の考え方では、史料を証拠として、古代の東北地方に住んでいた蝦夷(えみし)のなかにアイヌ民族の祖先がいたとされます。720年に編纂された『日本書紀』では蝦夷がどの方角に住んでいるかを中国皇帝に聞かれ、「東北」だと答えていますが、それは都からの方角であり居住地ではありません。8世紀に成立した『続日本紀(しょくにほんぎ)』に記された「蝦夷征伐」についても、発掘調査で戦いの痕だと認められる遺跡が発見されているわけではありません。

馬を飼う文化と言語

古代史では蝦夷は馬を飼うのが特徴だと言われます。しかし馬はもともと日本列島に生息しておらず、5世紀に古墳文化を担っていた人々が大陸から導入し、馬を飼う文化を広めました。一方でアイヌ民族は馬を飼いませんでした。古代の蝦夷が馬を飼っていたのなら、「蝦夷はアイヌ民族ではなく和人である」という可能性が高まります。また、アイヌ語は形容詞がない代わりに動詞を形容詞的に使うなど、日本語とはまったく違う言語です。12世紀以降の東北地方では日本語が話されていたことが文献からわかりますし、それ以前に使われていたアイヌ語から急速に言語が入れ替わったと考えるのも難しいでしょう。青森県西部で使われる津軽弁に日本語古語に由来する言葉が多いことからも、そこでは古くから日本語が話されていたことがうかがえます。つまり、古代の東北地方にはアイヌ民族ではなく和人が住んでいたと推測できるのです。

考古学は物証が大切

事件が起きた時に伝聞や自白ではなく物証を求めるように、考古学でもその歴史が本当に起きたのかという証拠を探して裏をとります。例えば日本列島各地の水田に住むマルタニシは弥生時代以降に出現したのですが、DNA分析によると朝鮮半島のものと同種です。マルタニシは水田や水路に生息し食用とされていたと中国の6世紀の文献に書かれており、稲作と共に大陸から持ち込まれたと考えられます。人間と共にあった様々なものや生き物から、人の移動や歴史の流れを読み取れるのです。

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東海大学 文学部 歴史学科 考古学専攻 教授 松本 建速 先生

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