『ハックルベリー・フィンの冒険』をめぐる文学の冒険
アメリカ文学を代表する一冊
アメリカの小説家マーク・トウェインは、『トム・ソーヤーの冒険』の作者として日本でも知られています。ただし、文学研究の世界では、その続編にあたる『ハックルベリー・フィンの冒険』の方が研究対象となる機会は多いのです。その理由は、この作品にはいろいろなテーマや文化的資料が豊富に含まれているからです。シェイクスピアがイギリス文学の代表であるように、『ハックルベリー・フィンの冒険』は実はアメリカ文学を代表する重要な作品の1つなのです。
現代にもつながるテーマ
物語の舞台となるのは19世紀のアメリカです。主人公のハックルベリーは、主人の元から逃げ出してきた黒人奴隷のジムと一緒にミシシッピー川を南に下っていき、その途中でさまざまなトラブルに巻き込まれます。ハックルベリーの目を通して、奴隷という身分が残る時代の習慣や文化、人々の暮らしを目撃していく中で、読者は自然と奴隷制や人種差別に対する疑念や否定的な思いを抱くようになるでしょう。白人の少年と黒人の奴隷がふたりで旅をするこの物語は、アメリカという国が後々の時代まで抱え続けていくことになる人種差別問題の根っことなる部分を先取りしているとも言えるのです。
時代によって評価も読み方も変わる
1885年の発表当時、『ハックルベリー・フィンの冒険』は子どもたちには読ませたくない本という扱いを受けていました。物語の語り手であるハックルベリーの言葉遣いに、非常に粗野で口汚いものが多かったからです。しかし第2次世界大戦後、アメリカで自国の文化的な価値を高めようという流れが出てくると、この作品は世界に冠たる文学的作品としてアピールされるようになります。そして現代においては、奴隷制や人種差別問題の視点から読み直すこともできますし、アメリカの美しい大自然を想像して純粋に楽しむこともできます。このように『ハックルベリー・フィンの冒険』は、時代や人によってさまざまな読み方が可能な作品なのです。
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