800年にわたるイベリア半島での衝突と交流は、何を生んだ?
800年間の衝突と交流
「レコンキスタ」とは、現在スペインがあるイベリア半島で起こった、キリスト教徒とイスラム教徒との争いです。800年ほども続いたので、イスラム世界の中でキリスト教徒であり続けた人や、逆にキリスト世界でイスラム教徒であり続けた人もいました。衝突の境界辺りでは、多様な背景を持つ人たちがモザイクのように入り混じったことで、生活や文化的な交流が盛んに行われたのです。そして当時の優れたイスラムの学問や知識がキリスト教世界に伝わっていきました。それが洗練され成熟されて、のちに西洋世界で花開く、ルネサンスの土台となったのです。
追放されたモリスコとは
イベリア半島でのレコンキスタが終わり、半島にいたイスラム教徒たちは、強制的にキリスト教に改宗させられました。そのような人たちを「モリスコ」と言います。中にはひそかにイスラム教を信仰するモリスコもいました。しかし、キリスト教で国を統治したいスペイン王権は多様性を許さず、17世紀になって約30万人に及ぶモリスコたちを半島から一気に追放してしまいました。乾いた大地にかんがい農業を広めるなど、長年社会に貢献してきたモリスコがいなくなった影響は大きく、「太陽の沈まない帝国」といわれるほど繁栄したスペインが衰退への道をたどる一因になったと言われます。ひそかにイベリア半島へ戻るモリスコもいましたが、多くは北アフリカなど地中海世界へ散らばっていきました。しかし、追放後に居住した土地でも差別を受けるなど、苦難の道を歩みました。中には中南米などの新大陸へ渡ったモリスコもいたようで、今も研究が進められています。
共生のあり方を学ぶ
世界の歴史を見ると、たとえわかり合えなくても同じ地域で異民族が共生していた例は各所にありますが、イベリア半島はまさにこの好例です。現代の社会でも、移民をめぐる対立や排除などの問題が起こっていますが、レコンキスタから近世までのスペイン史を眺めると、多文化共生の素晴らしさや難しさを学ぶことができるはずです。
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