日本人の知らない中国の外交

日本人の知らない中国の外交

「中国」は外交によって成り立ってきた

中国は世界で最も人口が多く、かつては世界の3分の1のGDP(国内総生産)を占めていました。しかし19世紀後半からは侵略を受け苦しい時代を送っていました。その時代に国を保つために、複雑に発展したのが外交です。当時は列強と戦争をしても勝ち目がないので、外交をうまくやって国家の輪郭を守ったのです。外交こそ、今の近代国家としての中国の外枠を形作ったといっていいでしょう。多種多様な民族が存在し、地方には軍事勢力がある中でも、中国は一つの国としてまとまり、さまざまな国々と外交を繰り広げてきたのです。そこには、私たちがよく知らない中国の姿があります。

台湾の情報公開により進んできた研究

そうした外交に関連した、現在見ることのできる史料の多くは、台湾にあります。蔣介石が持ち出し、台湾に渡った外交文書が、1980年代後半に公開になったのです。それまでの研究は、台湾の国民党や中国の共産党がつくった資料集を基に行われていました。つまり、後の時代の人々による解釈が含まれていたのです。しかし当時の外交文書を使えば、より客観的な研究ができるのです。批判されていた外交も、再評価されたりします。

大切なのは、当時の当事者の史料

例えば、1919年には五・四運動によってナショナリズムが盛り上がり、パリ講和会議のときに中国の代表はヴェルサイユ条約に調印しなかった、と歴史の教科書には書いてあります。しかし、五・四運動と条約に調印しなかったこととの間にはほとんど関係がなかったことがわかっています。五・四運動より先に、調印しないことは決定していました。
ところが、当時のメディアは外交官を批判し、後世の人たちが政治的な解釈を加えて発言してしまったりして、それが歴史となって定着していたのでした。しかし、外交史研究は、そのとき直接外交を行った当事者の残した外交文書を使います。当事者の残した史料を丹念に見ていくことで、歴史の事実を再構成することができます。

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東京大学 教養学部 教養学科 教授 川島 真 先生

東京大学 教養学部 教養学科 教授 川島 真 先生

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国際関係史、外交史学

メッセージ

学校で習うことの内側に自分を閉じ込めて、それ以上のことは知ろうとしないということが一番よくありません。教科書や教わることを疑い、その先に行ってほしいと思います。自分で自分の限界をつくり、自分の可能性を閉じ込めてほしくありません。
歴史の教科書が毎年少しずつ変わっているように、今のあなたが私の年になる頃には、東アジアの地図は変わっているかもしれません。今後、世界や日本はどうあるべきかをしっかり考えましょう。そのためにはむしろ、人類のさまざまな可能性と経験を示した歴史の勉強が役立ちます。

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