いま学ぶアイヌ民族の歴史―先住民研究で文化的多様性を考える
先住民族としてのアイヌ民族
北海道には、本州以南とは異なる独自の歴史文化があります。北海道において独自の歴史を育んできたアイヌ民族は、日本列島北部の先住民族です。先住民族とはどのような人々のことを示すのか、国際的に統一された定義はありません。しかし、国際社会では、「独自の文化的な特徴、伝統様式をもつこと」「他者(他民族)から植民地的影響を受ける前から固有の土地に暮らしていたこと」「祖先との歴史的な連動性をもつこと」「現状において社会集団の中でマイノリティである」人々であると理解されています。
文化遺産と先住民族
先住民族の視点や世界観を重視し、その歴史や文化を考える学問を「先住民考古学」といいます。2021年8月現在、世界に1154件ある世界遺産のうち、文化遺産と自然遺産の両方の条件を満たす複合遺産が39件ありますが、そのほとんどが先住民族の文化遺産と深く結びついています。先住民族にとって文化遺産は過去の遺産ではありません。現在の生活においても重要な精神的な支えとなる生きた遺産です。北海道には先史時代に遡る遺跡が数多く残されていますが、それらはすベてアイヌ民族の祖先が残してきた遺産です。北海道の遺跡を理解する上で、また今を生きる社会の中での価値や意義を理解するためには、アイヌ民族の世界観や精神文化の理解が不可欠です。
近代的二分法を乗り越える
明治維新以降の近代国家形成の過程で、アイヌ民族はアイヌ語ではなく日本語の使用を強いられ、シカやサケを自由に捕獲する権利を奪われました。政府や研究者はアイヌ民族を「未開の民族」「滅びゆく民族」というイメージでとらえ、同化政策を押し付けました。「人間と自然」「社会と環境」「文明と未開」など二項対立的な視点は、19世紀以降の近代世界が作り上げてきた考え方です。こうした近代的二分法を乗り越え、文化的に多様性な世界を理解する目を持つ必要があります。アイヌ民族や先住民民族の文化遺産から我々が学ぶべきものは少なくありません。
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先生情報 / 大学情報
北海道大学 大学院文学院 アイヌ・先住民学講座 教授 加藤 博文 先生
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