DNA解析でわかる魚の「出身地」
見た目は同じ魚でも
ハゼは日本沿岸に多く生息する魚です。同じ種類のハゼでも、日本海側に住むグループと太平洋側に住むグループのDNAを調べると、遺伝子に違いがあることがわかります。これは、氷河期に海面が140メートル前後下がったことで海峡が陸となり、日本海がほぼ閉じられた状態になったためだと考えられています。日本海側と太平洋側のグループと交流がなくなり、遺伝的に隔離されてしまったのです。このように、DNA解析から魚類の生息地や移動範囲などを調べる研究が行われています。
マグロは世界中の海を回遊してる?
広大な海域を回遊するマグロやサメなどについても、実際にどのような範囲を移動しているのかが調べられています。さまざまな海域から収集したマグロのサンプルをDNA解析したところ、特にメバチやキハダなどの熱帯マグロは、インド洋・太平洋のグループと大西洋のグループにほぼ交流がないことがわかりました。熱帯マグロは暖かい海を好むため、緯度が高く水温の低い南アフリカの喜望峰の海域を越えるのが困難だからだと考えられます。
同じマグロでもグループによって生息域が異なるという研究結果は、水産資源を適切に管理していくうえでも大切な情報です。また、DNA解析によりマグロの生息域が判別できれば産地偽装問題の解決にもつながるため、簡便で迅速な判別法の開発が期待されています。
そこにいた魚が海水でわかる!
これまで、ある海域を行動範囲とする魚を調べるには、実際にその場所で魚を捕まえるしかありませんでしたが、これは非常に手間のかかる方法です。そこで近年注目されているのが環境DNA解析です。剥がれ落ちた魚の粘膜や皮膚から海水に溶け出したDNAを分析する方法で、調べたい場所の海水を採取して解析するだけで、そこにどのような種類の魚がいたのかがわかります。環境DNA解析は、環境アセスメントのための調査や、地球温暖化に伴う生物種の分布変化のモニタリングなどで利用が広がりつつあります。
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