海の生き物を味方に? 環境への影響を抑えた廃水処理をめざして
金属が溶けた水をどう捨てる?
スマートフォンをはじめとする道具の製造には、銅などの金属資源が欠かせません。その金属資源の採取や加工をするときに発生する環境への影響を抑えようと、効率のよい加工方法や廃水処理技術が研究されています。
例えば銅山から掘り出したばかりの鉱石には、銅が1%程度しか含まれていません。そのため加工を何度か行って銅を取り出していきます。その手法のひとつが、砕いた鉱石中の銅を泡の力で分ける「浮遊選別」です。選別をしたあとに残る水には、さまざまな金属が溶け出しています。この水をそのまま捨てると環境に悪影響を与えてしまうため、廃水をきれいに処理する技術が必要です。
陸と海では廃水が違う
金属は陸上だけでなく海底からも採取されています。海底から採取した際の廃水を調べると、陸上とは化学組成が異なることがわかってきました。陸上鉱山の場合、廃水は水素イオン指数(pH)が低く、鉄やアルミニウムが多く含まれています。一方、海底の場合の廃水はpHがそれほど低くなく、亜鉛やカドミウムを含んでいます。そのため陸上で行っていた廃水処理技術をそのまま海底鉱物資源開発の廃水処理に流用するのは困難です。
微生物の力で水をきれいにする、鉱物を分離する
ここで、海の中にいる微生物が廃水処理に役立つ可能性が浮上してきました。陸上鉱山の廃水処理でも、鉄酸化菌を使って廃水をきれいにすることがあります。海にも独自の鉄酸化菌やマンガン酸化菌などが存在しているため、廃水処理に利用する研究が始まりました。ただし海水中の微生物にはまだ不明点が多いため、微生物の特徴や分析方法の研究も必要です。
また、廃水処理や鉱物加工全般に海水を使うことが可能になれば、コストや資源を節約できると期待されています。すでに海水は鉱物の加工などに使われていますが、今は脱塩化して淡水にしてから利用する方法が主流です。もし海水のままで効率よく処理をする方法が見つかれば、海水の脱塩化が不要になり、それだけ環境への負荷も抑えられるはずです。
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先生情報 / 大学情報
東京海洋大学 海洋資源環境学部 海洋資源エネルギー学科 准教授 淵田 茂司 先生
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