これからの循環型社会に役立つ! 化学×バイオ×工学
食との競合が課題のバイオ燃料
人類が大量生産・大量消費・大量廃棄を続けてきた結果、石油などの化石資源はハイペースで埋蔵量を減らし、地球環境にも大きな負担をかけてきました。そこで、できるだけ製品が廃棄されないように調整し、廃棄物も再利用して環境への負荷を減らす「循環型社会」が提唱されています。
海外では化石燃料の代わりに、CO₂排出量が実質ゼロとみなされる植物由来のバイオ燃料が製造されています。しかし、バイオエタノールは、でんぷん(糖分)を多く含むトウモロコシなどの食べものから作るのが一番安くなります。できるだけ食べられないものから作りたいのですが、目的の成分だけを取り出す経済的な技術がまだ開発されていないのです。
食用油製造で発生する食べられない油の利用
日本では、精米で生じる「米ぬか」から食用の米油を搾っています。その際、熱などで分解された食べられない油が2割程度発生しますが、使い道がなく焼却されています。この廃棄油を有効に使うため、まず、主成分である食べられない油をバイオ燃料に効率的に変換する技術の開発が進められました。そして、新しい触媒(反応速度を促進するもの)を創り出すのではなく、従来からある市販のイオン交換樹脂という水処理剤の新たな触媒機能が発見されました。海外では、樹脂に目的の機能がないと報告されていましたが、なぜ機能がでなかったのかをじっくりと考え、それを解決する方法をいくつも試すことで壁を突破し、世界初の製造技術を生み出されました。
循環型社会に貢献する化学工学
またこの方法で、廃棄油に含まれるビタミンEや口紅のもとになるパラフィンなどの有用な成分を順番に取り出すことにも成功しています。このように1つの原料から効率よく多数のものを作り出す「マルチ生産」の技術は、バイオマス資源を活用する循環型社会の有力な手段になります。化学工学は、新しい技術開発に加え、それを社会で実用化するために、コストや環境負荷を考えながら製造プロセスやそれを使う社会をデザインしていく魅力的な学問です。
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先生情報 / 大学情報
東北大学 工学部 化学・バイオ工学科 教授 北川 尚美 先生
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