社会を大きく変革するスピントロニクス技術
電子が持つ二つの性質を合わせて利用
「スピントロニクス」という言葉を聞いたことがありますか? これは、実現すれば、エレクトロニクス分野を根本から変革する新技術です。現在使われている半導体は、電子が持つ電荷(電気を伝える性質)を利用したものです。スピントロニクスというのは、電子が持つもう一つの性質であるスピン(磁石の性質)を利用するもので、まったく新しい機能を持つ素材や素子(個々の部分)を開発する研究分野であり、日本が世界をリードしています。
スピントロニクスで「省エネかつ高性能」を実現
半導体と一般に呼ばれている集積回路には多数のトランジスタが使われています。トランジスタ素子の性能を向上させるには、一つひとつを小さくする必要がありますが、そうすると電気が漏れ、消費電力が大きくなってしまいます。これは情報を保持するのに常に電気を流しておかなくてはならないからです。この部分にスピントロニクス素子を使えば電流が途絶えても情報を保持するので、書き込む時と読み出す時にのみ電気が流れればよく、さらに集積回路全体ではなく使っている部分だけに流れればよいので、使用する電力が大幅に削減され省エネになります。また性能向上のために多くの電気を必要とする現状の半導体では、電気が多く流れると発熱してしまうので、発熱を抑えるために性能も抑えなくてはなりません。一方、スピントロニクスの場合は、使うところだけに電気を流せばよいので、発熱が抑えられ、さらに性能を伸ばすことができるのです。
世界初! 待機電力ゼロの論理集積回路を開発
この研究では、既に「汎用検索集積回路(TCAM)」などの集積回路を開発し、世界で初めて待機電力ゼロの論理集積回路の実証に成功しました。そしてさらに高性能な小さな素子の開発をめざすなど、素子の開発から集積回路の実証までが、多数の研究チームの連合で進められています。これを利用した論理集積回路が実現すれば、あらゆる電子機器の性能が飛躍的に向上し、省エネルギー化が大きく進むでしょう。
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先生情報 / 大学情報
東北大学 電気通信研究所 教授 大野 英男 先生
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