地域の小さな建築から、持続可能な建築を考える
地域の特徴をもった民家
日本各地に残されている伝統的な民家には、合掌造りや曲がり屋造りのように、地域の生業や気候に合わせた特徴のある建て方がされています。また、主な住まいとして使われる母屋に大きな特徴がない地域でも、付属の建物である小屋や蔵などを調査すると地域的な特徴が見られることもあります。
敷地の中の小さな環境循環
秋田県大仙市仙北には、「水板倉(みずいたくら)」と呼ばれる小屋が残っています。板倉とは木でできた倉庫であり、水板倉はため池の上に建っているものです。ため池は湧水を水源としているために年中を通して水温が低く、水板倉の中の温度は低く保たれ、穀物などの保存に適しています。加えて、水の上にあれば害獣であるネズミは侵入できません。水源から引いた水は、一旦、母屋内の洗い場に入り、そこからため池に流れ込みます。洗い場では洗剤を使わずに食器や野菜を洗い、その残滓がため池に流れ、そこで飼っている鯉の餌となります。鯉は、ため池に浸かっている水板倉の脚の部分に生える苔を食べて、部材が腐るのを防いでくれます。さらに、食料が少なくなる冬場には、タンパク質として鯉が食べられていました。水板倉を含む住宅の敷地の中で、小さな環境の循環ができていたのです。
伝統構法を生かした仮設住宅
板倉のような伝統的な木造の構法では、釘などの金物が最低限しか使われていないため、解体・再生が比較的容易です。東日本大震災の応急仮設住宅建設の際には、住宅メーカーの工場も被災したためにプレハブ住宅の供給が追い付かず、福島では地元の木材を使って板倉の構法を生かした木造住宅が作られました。建設当初から応急仮設住宅の役目が終わった後は別の建築に活用できることをコンセプトとしており、数年後には、より生活に即した復興公営住宅としての転用や、他県の災害時の仮設住宅として移築を果たしています。伝統的な建物の構法を再解釈すれば、持続可能な社会に適し、地域の特徴を生かした建築につながると考えられます。
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先生情報 / 大学情報
山形大学 工学部 建築・デザイン学科 助教 濱 定史 先生
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建築構法計画、伝統木造構法先生が目指すSDGs
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