がん治療への期待が高まる、がん細胞に薬を運ぶ物質とは?
細胞膜を通過するのは難しい
動物の細胞には膜があり、外側から中にものが入らないようになっています。これは体の中に異物を入れないようにするためには、必要な構造です。ところが、薬などを、細胞の中へ届けたい場合もあります。そんなときに、何か方法はあるのでしょうか?
最近の研究で「ポリヒスチジン」というペプチドは、細胞の中へ入りやすいことがわかりました。ペプチドというのは、アミノ酸が2つから数十個つながった化合物のことです。ヒスチジンはアミノ酸の一種で、ポリヒスチジンはヒスチジンがたくさんつながったものです。ヒスチジンは多く連なるほど、細胞膜を通過しやすいことが明らかになり、特に16個以上であると細胞膜を透過する能力が高くなります。
がん細胞の中へ薬を届けることも可能
細胞の中へ薬を送り届ける技術を「ドラッグデリバリーシステム」といい、さまざまな病気の治療に役立つ可能性があります。中でも、このポリヒスチジンは、がん細胞の中にも入りやすいのが特長です。また、輸送能力が高く、大きなものを運べます。薬を乗せて、がん細胞の中へ入ることができるのです。しかも、安定した長時間の「血中滞留性」を示しています。つまり、体の中に長時間とどまることができ、生体内のがん細胞へ効果的に働きかけることが期待されています。
植物細胞の中にも入れる!
ポリヒスチジンは、植物の細胞の中へもよく入ります。植物は、動物と違い、細胞膜の外に壁があるので、これまでのペプチドは中に入ることができず、細胞壁にくっついていました。ところが、6~10個のポリヒスチジンは植物細胞の中へ入ることができます。動物細胞よりも小さな個数のポリヒスチジンが入りやすい理由はまだ明らかではないのですが、この違いは興味深い点です。
つまり、動物細胞に作用する長いポリヒスチジンは医療への応用が、植物細胞に作用する短いポリヒスチジンは農薬などへの応用がそれぞれ期待されているのです。
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先生情報 / 大学情報
鳥取大学 農学部 生命環境農学科 農芸化学コース 准教授 岩崎 崇 先生
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