貼るワクチンが年間150万人の子どもの命を救う

貼るワクチンが年間150万人の子どもの命を救う

ワクチンがあれば救える多くの生命

アフリカなどの新興国では、年間およそ150万人、1日にすると4000人もの子どもがワクチンによって予防可能な感染症で亡くなっています。もしワクチンが普及すれば、大勢の命を救うことができるのです。しかし、ワクチンを子どもたちに届けるには二つの問題をクリアする必要があります。それは、ワクチンを冷蔵保存することと、注射を安全に打つために医師や看護師などを確保することです。新興国には、電気が通っておらず、医療技術者が不足しているところも多くあるため、現状ではこれらの問題解決は困難です。そこで、従来とは異なる新しいワクチン接種法の研究が進んでいます。

溶ける針を使った貼るワクチン

それは、室温保存が可能で、注射器を使わずにワクチンを接種できる「経皮ワクチン」です。経皮ワクチンの一つに、「マイクロニードル」と呼ばれる長さ0.8ミリ程度の短い針を剣山のように薄いシートに並べ、腕などに貼り付ける方法があります。現在開発中のマイクロニードルは、皮膚の成分の一種であるヒアルロン酸でできているので、体内に入っても無害です。このマイクロニードルにワクチンを含ませておけば、皮膚に入ったときに体内の水分で針が溶け、中の薬(ワクチン)が皮膚内にしみ出します。ワクチンは皮膚表面のすぐ下にいる免疫細胞に作用して抗体を作り、感染症を防ぐというわけです。

世界初の「貼る医薬品」開発の課題

貼る医薬品の実現には、まだいくつかの課題が残されています。例えば、針の長さや強度などを人種によって調整する必要があります。また誰でも簡単に、しかも正しく針が皮膚に刺さるように貼れるものを開発しなければなりません。さらに医薬品として販売するには、製薬会社にとっての採算性の問題もあります。とはいえ、化粧品の分野ではすでにマイクロニードルを使った製品が販売されているため、技術的な問題はほぼクリアできています。多くの子どもたちを救う世界初の技術が、あと少しで実用化できるところまで来ているのです。

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大阪大学 薬学部 薬学科 教授 中川 晋作 先生

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薬学、薬剤学

メッセージ

研究=知識ではありません。大学に入学するには最低限の知識が必要ですが、重要なのは知識をどれだけ持っているかではなく、生きていく上でどう知識を使いこなせるかです。薬学の研究も同じで、どうしたら患者さんに副作用が起こることなく治療できるか、ひとつの治療法がダメならどこをどう改善すればいいのか、などの攻め方を持てる知識を駆使して考えていくことが大切です。大学では“研究”を題材にして科学的論理思考に基づいた総合判断力を身につけてほしいと思っています。

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