地球温暖化が進むと、魚はオスばかりになる?
魚はふ化後に性転換する!?
性別を決定する「性染色体」にはX型とY型があり、私たちヒトでは男性はXY、女性はXXの組み合わせです。子どもは両親から片方ずつを受け継ぎ、父親のYを継げばXYとなり男性、Xを継げばXXで女性になります。しかし、多くの魚類は体外受精のため環境の影響、特に水温の変化に影響されやすく、ふ化後に性染色体どおりの性別にならない“性転換”がおこってしまうことがあります。
魚の体内で何が起きている?
一般的に多くの魚類では高水温で育った稚魚はオス化しやすくなります。例えば性の温度感受性が強いトウゴロウイワシの仲間では、稚魚を高水温で飼育すると性染色体がXXでもほとんどがオスになってしまいます。このオスへの性転換が起こるのはストレスホルモンの影響だと考えられています。成育に適さない水温がストレスとなり、稚魚の体内でストレスホルモンであるコルチゾールが分泌されるのです。過剰に分泌されたコルチゾールを抑制するため11β-水酸基脱水素酵素2という酵素が活性化されますが、この酵素には男性ホルモンを作る働きもあるので、結果的にメスがオス化してしまうのです。
性別の偏りが招く未来
問題は性転換しても性染色体は変わらないことです。性染色体的にはオス(XY)なのに卵巣、メス(XX)なのに精巣が作られても普通に育ち、子どもを作ることができます。もし、XXのオスとXXのメスが交配すると子世代は全てXXになり、メスに大きく偏ります。また、XYのオスとXYのメスが交配すれば、子世代に超オスとよばれるYYが生まれ、さらにこのYYがXXのメスと交配すれば、孫世代は全てXYとなり、オスに大きく偏ってしまいます。雌雄のバランスが崩れた集団は繁殖に支障をきたし、最悪の場合は絶滅してしまうかもしれません。地球温暖化による海水温上昇は地球全体で100年に0.5℃、温暖化の進行が早い日本近海では1℃程度です。しかし変温動物である魚たちにとって、たった1℃の海水温の違いでも決して侮ることはできないのです。
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東京海洋大学 海洋生命科学部 海洋生物資源学科 准教授 山本 洋嗣 先生
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