環境にやさしい養殖を可能にする「アクアポニックス」
期待を集める陸上養殖
水産には海から水産物を捕ってくる「漁獲漁業」と、人間の管理下で水産生物を育てて収穫する「養殖」があります。1980年代頃から漁獲の生産量は頭打ちになり、養殖の生産量が増加してきました。世界的に見ると現在は両者が同じ規模で、今後は養殖がさらに伸びると予想されています。
日本の魚類養殖は、海面に設置した「いけす」や天然の水源を利用する池を用いて魚を飼う方式が主流です。この方法には大量の魚の排せつ物が川や海に流れ、水の汚染や生態系への影響が懸念されます。その回避と、日本では養殖に利用できる場所が不足していることなどから、陸上養殖の取り組みが各地で始まっています。
廃棄物問題を解決するには
陸上養殖ではろ過などの方法で水を循環利用する場合が多いですが、ろ過では固形物は取り除けても水の中に溶け込んでいる物質は残ります。それが水質を悪化させ、いずれ魚に影響が出るような濃度になってしまいます。このような物質は、植物の肥料になるものなので、肥料として野菜などに吸収させれば水を長く使うことができます。そこで、陸上養殖と野菜の水耕栽培を組み合わせた「アクアポニックス」が生まれました。アクアポニックスの技術は40年ほど前からアメリカやオーストラリアで開発されており、近年、環境への配慮や生物への影響といった観点から注目されています。
海産魚のアクアポニックスは可能か?
アクアポニックスは海外では既に産業化され、日本でも複数の大型施設が稼働し始めています。海水では通常の野菜は育たないため、現状では淡水魚と一般野菜の組み合わせに限られています。しかし日本の養殖の主体は海産魚なので、海産魚養殖に適応したアクアポニックスを行うための研究が始まりました。海産魚の中には、海水よりも塩分の少ない水で育つ種類がいます。そのような魚種と耐塩性の高い野菜を組み合わせれば、汽水によるアクアポニックスが実現できます。将来的にはアクアポニックスで育てられた多種多様な魚と野菜が食卓を彩ることが期待されています。
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先生情報 / 大学情報
東京海洋大学 海洋生命科学部 海洋生物資源学科 准教授 遠藤 雅人 先生
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