薬学の魅力~薬剤開発が教えてくれる「体と病の仕組み」~
薬学は複合的な学問
薬学は、薬、つまり人体に好影響を与える「化学物質」に関する学問ですが、その領域は幅広く複合的です。「化学」はもちろんですが、人体への影響を知るための「生物学」、薬剤の形にするための「物理学」、薬を分析する機器を扱う「工学」、そして薬を飲んでもらうためのコミュニケーションや薬剤を扱う倫理観も重要です。これだけ多くの領域にわたって専門性を求められるところが、薬学の特徴です。同時に、薬学は人間の体の仕組みや、病気が生じる過程の解明につながる学問でもあります。
記憶力の向上につながる物質を探す
認知症を例にして考えてみましょう。認知症とは、認知機能に障がいが生じる病気で、主な症状の1つは記憶力の減退です。脳の中で記憶を司っているのが海馬(かいば)という器官であることはわかっていますが、記憶形成の仕組みがすべて解明されているわけではありません。そこで、記憶の形成において海馬がどのような役割を果たすのかが、盛んに研究されています。
薬学の研究者も、認知症に関わるさまざまな研究に取り組んでおり、その成果の1つに記憶力の向上に有効な化学物質の発見があります。
薬学によって新たな解明が可能
薬学の分野での研究と実験によって、「フィセチン」という天然の化学物質が、記憶力の向上に有効であることがわかっています。ただし、フィセチンがどういう仕組みで記憶力を向上させるのかは、まだ十分にはわかっていないので、フィセチンの働きの解明は大きなテーマです。フィセチンのどの分子が、脳の海馬のどの分子と結びついて、記憶力向上の作用を発揮しているのかがわかれば、記憶の仕組みの一端が解明されるかもしれません。また、今まで知られていない分子やその働きが見つかる可能性もあります。
薬学は、化学物質を出発点にして、新たな薬の開発から未解明の病気や人体そのものの仕組みの解明にまでつながる可能性を秘めた、魅力的な学問なのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
武蔵野大学 薬学部 薬学科 教授 阿部 和穂 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
薬理学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?