魚から猫そして人へ、次世代型植物で「食べるワクチン」をつくる!
「葉緑体」は天然の化学工場
植物の葉にある「葉緑体」は光合成を行う細胞小器官として知られていますが、実はアミノ酸や脂質などさまざまな物質を生産する「天然の化学工場」でもあります。この「工場」の生産ラインをつくりかえることで、人間の生活に役立つタンパク質などの有用物質を安価に大量生産できる【葉緑体工学】という遺伝子組換え技術があります。
葉緑体は、遠い過去に細胞内共生したシアノバクテリアが祖先のため、独自のDNAをもっています。その数は細胞1つあたり約1万個です。葉緑体工学では、すべての葉緑体DNAに対して目的の遺伝子を入れることで、タンパク質を大量に生産することが可能です。
植物でつくる「食べるワクチン」
葉緑体工学をつかった研究の一つが、魚用の【食べるワクチン植物】の開発です。養殖業では、病気の予防のため、魚一匹ずつにワクチンを注射していますが、手間やコストがかかります。また、注射は一定以上の大きさの魚にしかできません。その解決策として、植物にワクチンをつくらせ、えさに混ぜて投与する「食べるワクチン植物」というアイデアが生まれました。最初の研究として、マハタという魚がかかる「ウイルス性神経壊死症」のワクチンが開発されました。モデル植物のタバコで「ウイルスの殻」を抗原としてつくらせ、その組換え植物からとりだした抗原をえさに混ぜて与えました。その結果、市販の注射ワクチンと同じくらいの効き目でウイルスの感染を予防できました。
家畜や猫、人の病気の予防にも
タバコにはニコチンなどの有害物質が含まれるため、ワクチンとして製剤化するには余分な物質をとりのぞく必要があります。そこで、「レタス」をつかった食べるワクチン植物の開発が進められています。レタスの葉を乾燥粉末にしてえさに混ぜれば、そのままワクチンとして投与できます。
将来の目標としては、対象魚種を生産量の多いブリやマダイへと広げるとともに、家畜や猫、さらには人の病気の予防にも応用できる「食べるワクチン植物」の開発が計画されています。
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先生情報 / 大学情報
茨城大学 農学部 食生命科学科 准教授 中平 洋一 先生
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