少ない肥料でたくさん収穫 遺伝子組換えで光合成機能を改良

少ない肥料でたくさん収穫 遺伝子組換えで光合成機能を改良

光合成に関わる酵素の量を増やす

光合成とは、植物が光エネルギーによって、吸収した二酸化炭素を糖やデンプンに変えるプロセスです。この光合成の能力を上げれば、農作物の収穫量を増やせると考えられています。光合成プロセスの初期に起こるのが、吸収した二酸化炭素を有機物に変える反応ですが、この速度が遅く、光合成プロセス全体の中でボトルネックになっています。そこで、イネの遺伝子を組換えて、この反応を行っている「ルビスコ」という酵素を増やそうという研究が行われています。これにより、光合成の速度を上げ、イネが大きく育つようにし、そこにつく実の量を増やそうというものです。現段階では、遺伝子組換えを行っていない普通のイネに比べて、最大で約30%収穫量が上がったというデータが出ています。

イネ以外にも応用できる

光合成に関わる酵素は複数あり、ルビスコ以外の酵素についても研究が行われています。酵素をひとつずつ、遺伝子の組換えを行い、温度や湿度、照明などが制御できる人工気象器という機械の中で育てながら光合成速度を調べます。効果が安定的に現れることがわかった段階で、実際に田んぼで栽培してみる、という手順です。光合成能力が改善した品種ができれば、そうした品種同士を掛け合わせて、さらに光合成能力を高められる可能性もあります。多くの植物はイネと同じ光合成プロセスを持っているため、この技術が確立すれば、イネ以外の作物に応用することも可能です。

窒素肥料が少なくて済む品種改良の可能性

植物の光合成能力を上げる研究は将来的に、肥料の削減につながる可能性があります。光合成の量は、葉に含まれる窒素の量に比例しており、その窒素は根から吸収されます。窒素肥料は植物の栽培に欠かせませんが、窒素量当たりの光合成量がアップすれば、農作物に与える窒素肥料が少なくて済みます。そして、農業のコスト削減、肥料製造時のエネルギーや二酸化炭素排出量の削減にも貢献できるのです。

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岩手大学 農学部 応用生物化学科(令和7年度から農学部 食料農学科 農学コース所属) 教授 鈴木 雄二 先生

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メッセージ

農学で研究をする際、意外と苦労するのが、勉強よりも実験技術だったりします。いろいろなものを自分の手でいじって、分解したり組み立てたりしていると、この部品はどんな役割をしているかなど、ものの仕組みの勘所がつかめるようになります。まるで工学分野の人がしている訓練のようですが、農学でも実験の設計をしたり機器を扱ったりするときに、そうした経験は役に立ちます。
また、「自分は生き物が培ってきた自然の叡智(えいち)に挑戦している」と思うと、行き詰ったときに自分を奮い立たせることができます。

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