微生物の力でアミノ酸をコントロール! 新しい発酵食品の開発

微生物の力でアミノ酸をコントロール! 新しい発酵食品の開発

発酵食品に不可欠な微生物

世の中には微生物によって作られる食品がたくさんあります。特に酒やチーズなどの発酵食品は、微生物がいないと成り立ちません。もし微生物を意図通りに制御できるようになれば、斬新な食品が生まれ、市場での競争に勝てるようなブランドを確立できると期待されています。

健康なビールをめざす

酵母などの微生物に特定のアミノ酸をたくさん作らせて、健康系ビールを生み出そうと研究が行われています。例えばシジミにも含まれている、オルニチンを豊富に含んだビールです。オルニチンというアミノ酸は、肝臓機能を向上させることがわかっています。そのため「二日酔いをしたときはしじみ汁を飲むといい」といわれているのです。もしビールそのものにオルニチンが含まれていたら、そもそも二日酔いにならないかもしれません。そこでオルニチンを作る微生物を利用したビール作りが試みられました。1杯にシジミ17個分のオルニチンを含むまったく新しいビールができたため、商品化に向けた取り組みが続いています。

新たな風味のワイン作り

食品に含まれるアミノ酸を減らしてほかの商品との差別化をめざす研究も行われています。事例の一つが、プロリンというアミノ酸を減らしたワイン作りです。プロリンは独特の苦みを持っているため、これがもしなくなれば苦みが減って甘さや酸味が増すことが期待できます。特にワインにはプロリンが0.1%程度含まれており、ほかの食品と比べるとかなり多いのです。
ワインの酵母は、原料に含まれるアミノ酸をほぼ食べきっているものの、プロリンだけはなぜか残しています。ほかの酵母を使えばプロリンも食べるかもしれないと、自然界の酵母1300種類が分析されました。プロリンを多く食べる2種類が見つかったためワインを作らせてみると、ワインと日本酒の中間のような新しい風味のワインができることがわかりました。ビールやワインのほかにも、微生物でアミノ酸を制御した新たな食品を作ろうと、研究が続いています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

岩手大学 農学部 食料農学科 食品健康科学コース 教授 西村 明 先生

岩手大学農学部 食料農学科 食品健康科学コース 教授西村 明 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

発酵科学、応用分子細胞生物学

メッセージ

微生物がいるからこそおいしい食品が世の中には数多くあります。目に見えないほど小さな存在が、実は大きな働きをしていることを知ってほしいです。もし微生物に興味があれば文系と理系を分けずに勉強するとよいでしょう。私も高校までは文系でしたが、大学では理系分野に進みました。文章を読んで考え、アウトプットする過程は文系も理系も同じだと感じています。まんべんなく勉強し、ときにはスーパーで食材を観察して「この食品は微生物によって作られているのか」と実感しましょう。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

岩手大学に関心を持ったあなたは

岩手大学は、人文社会科学部、教育学部、理工学部、農学部の4学部からなり、文理バランスの取れた総合大学です。
宮澤賢治も学んだ歴史と伝統、そして市街地ながら緑あふれるキャンパスは利便性も高く、落ち着いた学びの環境を形成しています。
また、全学部がワンキャンパスにあるため他学部の学生との交流も盛んで、学生の研究や就職などにも大きな効果をもたらしています。
大学HPでは、学部紹介やニュース、「岩手大学公式X」等で大学の魅力をお伝えしています。興味を持った方は是非ご覧になってみてください。