しっかり飲み込めてる? 筋肉の動きで紐解く、嚥下(えんげ)の科学
飲み込む力は弱くなる
口の中に入れた食べ物は、舌と顎の共同作業で飲み込みやすい塊に変化し、それを喉の奥に送り込むことで「ごくっ」と飲み込むことができます。その際、食べ物が気道をふさいで窒息したり、肺に侵入して肺炎を引き起こしたりしないよう、複数の筋肉が連動して動き、気道を防御しています。さらに、飲み込んだ後も、喉に残った塊を誤って吸い込まないよう、呼吸を「吐く息」から再開します。飲み込みとは、複数の筋肉によるわずか1秒程度の緻密な連携プレーですが、加齢に伴ってこれらの機能が弱まり、誤嚥(ごえん)などの「嚥下障害」を起こしやすくなります。嚥下障害によって誤嚥性肺炎を起こして亡くなる高齢者は、なんと年間4万人もいるのです。
嚥下機能を検査する新たな技術
嚥下機能の低下は、高齢者だけの問題ではありません。すでに40代から喉の老化が始まっています。嚥下機能を精密に検査するには、X線透視下で筋肉や食べ物の動きを観察する必要がありますが、放射線を使うため患者に負担がかかります。また、検査できる病院も限られています。そこで、喉周辺に装着可能な生体センサが作製され、筋肉が動く際に発生する微弱な電気信号から、加齢による機能低下や疾患の有無を読み解く革新的技術が開発されました。新たな技術を生み出し続けることで、誰でも簡便に嚥下機能を検査できる未来を創造できるのです。
多様な分野の学びと融合
口から食べる幸せを守るためには、嚥下障害を発症してからでは手遅れです。自動血圧計のように、身近な検査環境を提供できれば、機能低下を早期に検出し、健康寿命を延ばすことができます。一方、このような技術開発には、ものづくりの基盤である機械工学に加え、情報工学の知識や医療機関との連携が不可欠です。このように、幅広い知識と技術を融合し、紐解いていくのが嚥下の科学です。
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先生情報 / 大学情報
岩手大学 理工学部 システム創成工学科 機械科学コース(令和7年度から 理工学部 理工学科 機械知能航空コース所属) 教授 佐々木 誠 先生
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