鉄鋼業のCO₂排出量を削減~水素製鉄とアップグレードリサイクル~
産業の基盤を支える鉄鋼業の問題
鉄は、さまざまな産業を支える重要な材料ですが、製鉄の際には、1000℃以上の高熱で鉄鉱石を溶かすため、莫大なエネルギーを必要とし、そこから排出される二酸化炭素(CO₂)が問題となっています。もう一つのCO₂排出の要因は、鉄鉱石に含まれる酸化鉄を還元する製法です。鉄と結び付いている酸素を炭素と結び付ける化学反応を起こし、CO₂として放出することで鉄を切り離して純粋な鉄を取り出すのです。こうした要因により鉄鋼業から排出されるCO₂の量は、日本の総排出量の約13%を占めています。
水素を使ってCO₂排出削減に取り組む
鉄は自然界においては酸素が結び付いた「酸化鉄」として存在するため、酸素と鉄を化学的に切り離す「還元」のプロセスが不可欠です。現在は、「コークス」と呼ばれる炭素の塊を還元剤として高炉(溶鉱炉)に入れ、化学反応を起こしています。この還元剤に水素ガスを使う研究が進められています。酸素を水素と結び付ければ水になり、CO₂を出さないからです。化学反応自体は成功していますが、課題はあります。炭素を使う還元は「発熱」反応ですが、水素を使う還元は「吸熱」反応で、高炉の温度を下げようとするので、温度の維持により多くのエネルギーを必要とするのです。これに対する解決策の研究が引き続き行われています。
リサイクルにも課題
製鉄の際のCO₂排出を抑える別のアプローチとして、金属スクラップから再び素材を作る「リサイクル」があります。すでに還元が終わっている鉄を溶かして再生するので、CO₂排出量を抑えることができます。しかし、回収された金属製品は、通常複数の素材が混じっており、それらを分離することは非常に困難です。現在は、建築に使う鋼材など、不純物があっても問題のないものにしか利用できません。これを元素間の親和力、つまり、元素同士が引き合ったり反発し合ったりする性質を上手に利用して、より高品質な素材に作り替える「アップグレードリサイクル」の方法が研究されています。
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富山大学 都市デザイン学部 材料デザイン工学科 教授 小野 英樹 先生
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